第346話 そのころの蘭さん
文字数 1,667文字
鏡に映ったのは、蘭さんたちの姿だ。
お姫様のドレスを着て、おとなしく王様の前にやってくる蘭さん。
それを護衛するワレスさんたち一隊。
残念だなぁ。
鏡に像は映るけど、声は聞こえないんだよな。何を話してるのかわかんない。
見たところ、蘭さんと王様はふつうに話してる。それどころか、王様はお城に帰ってきた蘭さんを見て、涙ぐんで手招きしてる。
悪のヤドリギにあやつられてるんじゃないのか?
王様は喜んでいて、送り届けてきたワレスさんたちにも、とても感謝している——ように見えた。
ワレスさんはたぶん内心はブラン王のことなんて、まったく信用してないんだろうけど、いちおう騎士らしい態度でやりすごしている。
王様が視線を蘭さんに戻したすきに、ワレスさんは急にこっちをふりかえってきた。
うわッ。ビックリ。
鏡で見てる僕らの気配に気づいたらしい。
ミラーアイズ。なんでもお見通しだなぁ。
すると、さっきまで聞こえなかった向こうの会話が聞こえてきた。
どうも、心話っていうのを使って、ワレスさんが向こうの声を僕らにも聞こえるようにしてくれたようだ。
「誘拐だなんて、とんでもないですよ。兄上。わたしはただ、結婚相手がどんなかたなのか、自分の目で見てみようとしただけです」
「ほんとにそうか? おまえをさらったという犯人は捕まえて、牢に入れてあるぞ」
「誰にもさらわれていません。その者たちは即刻、自由にしてやってくださいませ」
「そうはいかぬ。一国の王女がお供もつれずに、たった一人で隣国まで出かけたなど、醜聞もいいところではないか。その者たちは明日の朝には処刑する手はずになっている。そなたも安心してよいぞ」
「だから、違うと言っているではありませんか。兄上はいつもそうですね。わたしの言うことなど、まったく聞いてくださらない」
「らんらん。わたしは心配しているのだよ? おまえに危険なことがあってはならないからな。ワレス騎士長。そなたには感謝する。今夜はわが妹が帰ってきた祝いだ。盛大に宴を催そうぞ」
王様。やっぱり、僕らを処刑する気なのか。いいもんね。もう逃げだしたもんね!
蘭さんたちは今夜、宴かぁ。
いいなぁ。たらふく飲んで、ごちそう食べるんだろうなぁ。
それとも舞踏会みたいなやつかなぁ?
とは言うものの、王様のまわりの兵隊たちは、まともな人間とは思えない。妙にモンスターっぽい顔つき。人間にしてはデカすぎるしさ。
王様が何も企んでないはずはないよね。
宴のときに、何か仕掛けてくるつもりじゃないかなぁ?
あっ、蘭さんとワレスさんたちが引き離された。
蘭さんはスズランやバラン、クマりん、モリーだけ従えて、ミルキー城の兵隊につれられていく。
三村くんさえ別にされた。
まあ、どう見てもチンピラ風だし、お姫様のそばにはいられないよね。
ワレスさんたちは別の兵隊に反対の方向へつれだされた。
でも、クルウの隊がいない。
すでに別行動に移ってるんだな。
その点では、ワレスさんたちのほうも計画どおりだ。
鏡に映る像がぼやけて、やがて消えた。もう見えない。
「見た? アンドーくん。イケノくん」
「うん。見た。というか、聞こえた」
「宴すると」
「王様がヤドリギなら、絶対、ただの宴じゃないよね?」
「まあ、そげだわね」
うーん。なんとかして、宴までに僕ら、ヤドリギの謎を解いて、その場に行けないかなぁ?
鏡の飾ってある場所は城内の地下空間のようだ。こっちの洞くつ遺跡とは、あきらかにエリアが異なる。
なんとかそっちに行ければいいんだけど、残念ながら壁が頑丈すぎて、とてもくずして、そっちに行くことはできそうにない。ドアやぬけ穴っぽいものもない。
「このスキマじゃ、さすがにクピピコも通りぬけられないねぇ。てことは、ここから向こうに移動はできないのか」
「どっかに、あそこに通じる場所があるだないの?」
「そげだねぇ」
ハッ!
……ああ、また僕は出雲弁をォー。
「あの鏡が怪しいよね。どっかに通じてるところがないか探そう」
そのとき、遠くのほうで、ドシンと変な振動がした。