第174話 ノームの村
文字数 1,943文字
「コッピピ、コピー」
しょうがないので、僕らは手招きするノームについていった。
まさかノームもコビット語を話すとは思わなかったけど、これは小人族共通の言語なのかもしれないな。バランは日本語、話してたけど……。
森のなかは小銭が拾えるから、モンスターの出現地帯ではあるようだ。
ただ、今はノームがついているせいか、モンスターには出会わなかった。疲れきってたので、ありがたい。
あたりの景色は光に満ち、金色のベールをまとっているようで、とても美しい。透きとおった風にさえ、陽光のさざめくような色が染まって見えた。
こういうふんいきは覚えがある。
虹の谷だ。
コビット族たちの村のあった、あの渓谷の風景に似ている。
コビットやノームのような妖精チックなものが好むのは、こういう場所なのかな?
「ココクピ。ノームファー。コピコピクピコ」
ん? ここがノームの村だよって言った? なんか、そんな気がした。だんだん、コビット語が話せるようになってきてる?
それはいいんだけど、茂みをかきわけて入っていったノームたちの村は、やっぱり小さかった。コビット村ほどじゃないけど、少し大きめのドールハウスだ。
可愛いキレイな村だった。
コビットの村はもっと自然に近い造りの家だった。ツリーハウスみたいな。家の前にキノコが飾ってあったりして。
でも、ノームの村の家屋は、サイズが四分の一ではあるけれど、人間の街のそれに近い。中世なんちゃってネズミランド風のレンガや飾り格子の窓の街並み。軒先きにいろんな看板が出ていて、どの看板にも宝石がキラキラしていた。
「可愛いなぁ。でも、僕ら家のなかには入れないね。茶室のにじり口より玄関、小さい」
僕らが巨人だから、しかたないんだけどねぇ。ドールハウスのなかも見物してみたかった。
すると、だ。
ピョコンとかけよってきたクピピコが、僕の足の指をコビット王の剣で、チョンと突いた。
イッターイ! ちっこいけど、注射針ていどには痛いよ。
「あッ! か、かーくん?」
「わあッ、兄ちゃん!」
な、なんだ?
叫ぶアンドーくんやナッツの姿が、どんどん、どんどん大きくなっていく。
どうなってるんだ?
そんなに大きいと怖いんだけど?
ああ、もう片足でふみつぶされそう。
いったい僕に何が起こった?
*
「な、何? なんで、みんな大きくなるの? 何があったんだー!」
「兄ちゃん、クピクピ言ってる」
「ど、どげする? かーくんが、こまになった」
こまになったというのは出雲地方の方言で、小さくなったとアンドーくんは言っている。
そして、ナッツよ。僕はクピクピなんて言わないぞ。
ちょっと待ってよ?
僕が小さくなった?
ま、まさか、みんなが大きくなったんじゃなく、僕が小さくなったのか?
ということは、これってコビットサイズなんだけど?
あらためてキョロキョロすると、僕の前にはクピピコが。身長は僕といっしょくらいなんだけど、三頭身なので体全体が丸まっちい。そのぶん、僕より重量感があった。
「なんで僕、小さくなったの?」
「コビット王の剣の装備品魔法が、突いた相手をコビットにするためにござる。呪文としては、どこにもない魔法でござるな。失われし古代魔法と聞きおよび申す」
うッ。クピピコの言葉がわかる!
しかも、思ってたのと違う!
「さあ、皆々、拙者について参られよ。いざ、地の精の住処へ行かん」
クピピコは次々と、アンドーくん、ナッツ、ナッツのお母さんをコビット王の剣で刺した。
体が小さくなる呪いを受ける僕ら……。
「ええーッ! 何コレ? 兄ちゃんがデッカくなった?」
「わやつもこまくなっただない?」
「いらはいまへー。僕と同じ世界へようこそー」
で、これ、どうやってもとに戻るの?
一生、このままじゃないよね?
僕がクピピコを見つめると、彼は清々しく笑った。
「これでようよう、皆々と話せるな。拙者、このときを待っておったでござる。われらが村をお救いくださり、その節はまっことかたじけのうござった」
「あっ、お礼はいいんだけど、僕ら、もとに戻れるよね?」
そこが肝心なんだ。
ほかのことはどうでもいい。
「今ひとたび、この剣で突けば、反作用にて魔法は解けるでござる」
「よ、よかった……」
ん? ほんとによかったのか?
体が大きいときでも、ちょこっと痛かったよね?
今の背丈なら、コビット王の剣はふつうサイズに見えるんだけど?
「ほ、本気で刺さないよね?」
「切っ先にて髪ひとすじほど突くだけにそうろう」
「う、うん。それなら……」
まあ、今から先の心配をしててもしかたない。
これで僕らはノームの街を楽しめるサイズになったわけだ。お茶しませんかの誘いに乗らない選択肢はない。
わ〜い!
ドールハウス、内見だぁー!