第20話 再会の約束

文字数 1,740文字



 蘭さんは続ける。
「あの通路なら、出てくるモンスターは、ぽよぽよやドラッキやメラりんだ。かーくんさんでも、ギリ倒せる」

 ああ、ごめんねぇ。
 僕がみんなの足ひっぱってるねぇ。

 チラリとドアのすきまから外をのぞきながら、ワレスさんが言った。

「牢屋のそばにあった、アレか?」

 蘭さんが答える。
「そうです。王家の人間だけが鍵をひらくことができる扉です」
「いいだろう。そこまで、おれが護衛する。そのさきは、おまえたちだけで行けるな?」
「そうですね」

 ああ……ワレスさん、行っちゃうんだ? さみしいなぁ。兄ちゃんと離れ離れになる気分。ワレス兄ちゃーん。なんちゃって。

「ワレスさんは、どこ行くんですか?」と、聞いてみた。
「ココノエ元王と王妃の救出に向かう。そのほうが勇者も安心だろ?」

 蘭さんのおもてが、パッと輝く。

「父上と母上を助けてくれるの?」
「ああ。勇者の心の平安のために」

 そっか。そうだよね。いかに部下が守ってるとは言え、ワレスさんは隊長だ。隊長がいるかいないかで、隊の実力が発揮できるかどうかは違うだろう。
 あっ、もしかして、クルウとか、ハシェドとかもいるのかな?
 ちょっと会ってみたかったなぁ。
 王の前ではワレスさんしか見てなかったし。てへっ。

「じゃあ、まずは、おまえたちを地下の扉の前までつれていく」
「いいけど、僕は兄にも追われています。ここを出たら、どこにも行き場が……」
「そうだな。おまえは、もっと強くならなければな。世界どころか、両親さえ救えない」

 あっ、今度は蘭さんがシュンと……。
 やっぱり兄ちゃんっぽいんだよな。
 蘭さんも兄ちゃんには、こんな感じ。
 強い男って似てくるのかな?

「まあいい。ここを出たら、おまえたちは、わが国へ来い。そこで鍛えてやる」

 へへへ。そこで再会できるのか。
 まあ、それならいいかなぁ。
 ほんとはレベル47のホーリーナイトにずっと護衛してもらいたかったけど。
 ゲームだもんねぇ。
 そんな簡単にはクリアさせてもらえないかぁ。


 *

「では、行くぞ。武器は持ったか?」

 あっ……。
 僕、まだ、装備品、買ってなかった。

「三村くん。青銅のよろいと銅の剣ちょうだい。かわりに、この木刀を売る」
「ほなら、百八十円と百五十円で、合計三百三十円から木刀買い取り代の二十五円ひいて、しめて三百五円やな。かーくんやし、特別に五円まけたるわ」
「えッ? まけてくれるの? ラッキー」

 まけてくれる商売人、ゲームでは初めてだ。
 着られてる感満載だけど、僕はようやく防具らしい防具を身につけることができた。ほんとはブーメランが欲しかったんだけど、お金が足りないから、しょうがない。銅の剣なら、木刀の使用法と大差ないだろうし。
 所持金は五十円になってしまったが、木刀の代金は残した。

「いいか? 行くぞ?」
「はい!」
「行きましょう」
「行ったるでぇー」

 とはいえ、なるべく地下道に入るまでは戦闘をさけたい。

「僕の得意技を使います。危険察知です。これでモンスターに先制攻撃されることはなくなる。出会い頭にぶつかることだけはなくなります」と、蘭さん。

 かわいそうにな。蘭さん。現実でもゲーム世界でも危険なめにばっかりあってるから、こんな得意技が……。
 僕なんか、小銭拾いだ。

 あれ? さっそく小銭だ。変だな。昼間、歩いたときには城内に小銭なんか落ちてなかったのに。
 そうか。この技って、モンスターが出現する場所でしか発動しないのか。
 つまり、今、このお城のなかはダンジョンと化している。

 あっ! しかも、よく見たら五十円だ!
 穴があいてるから、てっきり五円だと思ってたぞ。五円でもこの世界に来てから拾うのは最高金額だけど、いきなり五十円か。これは嬉しい。いっきに所持金が倍に。
 現実では一回だけ五百円玉、拾ったこともあるけどねぇ。

 しばらく歩くと、すぐにまた五十円が落ちていた。な、なんだ、これ? こんなに拾えていいのか? 幸せすぎて怖い!

 もしかして、僕のこの得意技って、出現モンスターの強さに関係してるとか?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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