第371話 これで終わり……ではなさげ

文字数 1,449文字



 これで、すべてが終わったのか?
 悪のヤドリギ、意外とあっけなかったな。
 てか、二千億ダメージとか、あっちゃダメでしょ。チートにもほどがある。じっさいに、いくら持ってたのかはちょっとわからないんだけど、ダンジョン一つ攻略すると、だいたい、それくらいは拾えてるから。
 二億ダメージで充分だったのに。

「兄上。ごめんなさい。でも、兄上の守りたいものは守れましたよね?」

 蘭さんが石になったお兄さんを見つめて、ポツン、ポツンと涙をこぼした。

 そのころになって、僕らが破壊して入ってきた扉から、ワレスさんたちがやってくる。

「すまない! 足止めに時間を食った。大丈夫だったか?」

 ハアハアと荒い息をつきながら、僕らのようすをながめたワレスさんは、ポンと蘭さんの肩をたたいた。

「……よくやった」

 それは、ただ強い敵を倒したって意味じゃない。蘭さんにとっては身を切るようにツライ決断をした上で、雄々しく戦った、という意味だ。
 だてに長年、ワレスさんの小説を書いてるわけじゃない。彼の心の機微はなんでもわかっちゃうんだよ〜

「それにしても、足止めって、ワレスさんの腕前でこんなに時間がかかるなんて、すごく強い敵だったんですか?」
「いや。攻撃力と防御力はたいしたことなかった。だが、ものすごい速度で自己再生する変なスライムみたいなヤツだった。それが足にまといつくから、ひとかけらも残さず焼きつくすまでに、そうとうの労力が必要だった」
「足止めには最高の敵ですね」
「ああ。あんなモンスターみたことがない。最初はほんのアメ玉ていどだったんだが、一秒ごとに倍どころか、百倍ずつくらい大きくなっていくんだ」

 めんどくさそうな敵だなぁ。
 そういうヤツにこそ、二千億ダメージだったのになぁ。

「ところで、ヤドリギをやったのか?」
「と思います」

 僕は地下で聞いた鏡の真実や、ブラン王との会話、その後の大広間での戦闘について、手短に説明した。

「なるほど。王の体内に憑依した状態で、石化して封じこめたというわけか。それなら、確実だな」

 よかった。
 これで終わりか。
 ブラン王の決意も、蘭さんの思いもムダにならなくてすんだ。
 この国を建てなおすには、これからが大変かもしれないけど、恐ろしい悪魔の思うがままにあやつられることはなくなったんだ。

 ——が、そのときだ。

 ほんと、ヤダなぁ。
 こういうボス敵って、たいてい復活したり、影武者がいたり、あれやこれやで二回戦、三回戦ってなるよね。

「ふはは。ふははははーッ! ほほ」

 どこからか高笑いが響きわたる。
 んんー? この声は……?

「そんなていどで、この私を倒したつもりですか? それは甘い認識というものですよ。ほほほ。私が鏡にとりこまれていたあいだ、何もしていなかったと思うのですか? 今日までの幾星霜(いくせいそう)、いったい、どれほどの数の人間に宿ってきたことか。夜ごとに私の魂のカケラを飛ばしては、傀儡(くぐつ)を増やしてきました。こんなときのためにね。たしかにブラン王のなかに入っていたのは私の本体だが、魂のカケラだって、相当数は外にいたのです。それらすべてを呼び集めれば、本体の半分……いや、それ以上の魂が残っている——来よッ! わが魂のカケラたちよ。今ここに集まれ!」

 長々としゃべるその人を、僕らは、そっとふりかえった。
 ため息が出るなぁ。
 やっぱり、そうだったのか。
 ヤツが自然に出ていくなんてことなかったんだな。

 赤く目を光らせて、両手をひろげてるのは、残念。イケノくんだ。
 まだ取り憑かれてたんだね……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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