第298話 シャケ商店、本格開店!
文字数 1,599文字
さ、ようやくポルッカさんのお屋敷だ。
「おーい。シャケ? 来たよぉ。調子どう?」
僕らがモンスターつれて、ぞろぞろと玄関ホールに入ると、待ちかまえていたかのように二階から三村くんがかけおりてくる。
「こっち、こっち。来てくれへんか?」
いやに浮かれてるな。
なんとなく、これからあとの予想がつくぞ?
こういうときの三村くんは、たいてい……。
二階につれられていくと、やっぱり思ったとおりだ。
この前、見たときには、使われていない人形製作のアトリエみたいな部屋だったところに、看板が立っている。
——シャケ商店——
うん。まんまだね。
「シャケ、お店ひらいたんだ」
「ナイスタイミングやで。ちょうど今日、開店にこぎつけたとこなんや。見てってや」
ささっとドアよこに走っていく三村くん。挙動は前と変わらない。
ぽよちゃんたちの服かなぁ?
そろそろ、もう少し強くしてもよかったんで、新しい防具は嬉しいけどさ。
また、ぼるんだろうな……。
「何が置いてあるの?」
「ポルッカさんが昔、仕入れてた布地とか使てええ言うてくれたからな。ちょい、きばってみたで。今回はほんまにええもん丹精こめて作ったからな」
「ふうん」
店内をのぞいて、僕と蘭さんはおどろきの声をふりしぼった。
「こ、これは?」
「もしかして?」
「せや。モンスター用もあんねんけどな。人間用や。人形師のランクが上がったんや。コスプレ衣装が作れるようんなった」
「へえー! すごいね。あっ、でも、僕ら、さっき銀行でオリハルコンのよろい三つも貰ったからなぁ。防具はあんまり必要ないかも。女の子用には妖精の羽衣と妖精のティアラがあるし」
「なんやいなぁ。おもろないなぁ。けど、これはあれへんやろ? どや?」
三村くんが示したのは、首のない木型のマネキンに着せた薄いローブみたいなものだ。正直、あんまり、よろいとしての防御力は期待できそうにない外見。
「なんか薄っぺらいね。よろい下に着てる長袖ティーとコットンパンツなみ」
ふふふと笑って、三村くんはキラーンと目を光らせる。
「そう。そこや。これまで誰も変に思えへんかったんが不思議やで。どない強いよろいかて、まっぱの上にちょくせつ着るわけちゃうやろ? よろい下の性能によって、着心地や守備力は違ってくるはずや」
「まあ、そうだね。軽鎧ならいいけど、固い金属の重鎧は、よろい下とこすれて痛くなったりするしね」
「せやからな、これは、よろい下用の衣服なんや。最高級の素材を使てやな。よろいの性能ひきだせるようにしたんや。それに魔法バリヤ素材を使えば、よろい下だけでも防御力は上がるで」
なるほど。そう言われるとそうだ。
「おおー! 目のつけどころが違うね。それ、ほんとに強くなるんなら、世紀の大発明だよ」
「せやろ〜」
三村くんはこれ以上ないほどドヤ顔してる。自慢したくなるのもムリないか。
僕らはさっそく、それぞれの好みの服を物色した。
「精霊王のよろいって透けるじゃないですか。だから、キレイなよろい下があればいいなぁとは思ってたんですよ」
「せやろ〜。ロランには、これがおススメやな。精霊王のよろいは、それじたいが性能ええからな。よろい下につけるんなら、この能力かなぁ思うて、MP吸収素材で作ってみたで。敵から受けた魔法の使用MPの30%を吸収できるんや」
ひざ下くらいのちょっとラメの入ったローブだ。デザイン的にはロランが今現在、着用してるローブと大差ない。でも形がシンプルなぶん、精霊王のよろい本来の美しさがきわだつ。
が、じっさいにそれに着替えた蘭さんはガッカリした。
「ダメですね。やっぱり、ステータスで、よろい下って装備品の項目がないから、反映されないみたい」
それを聞いて、三村くんもガッカリだ。
「なんやぁ。いい商売になる思うて、せっせとこしらえたんやけどなぁ」
僕は考えた。
こんなときこそ、“小説を書く”じゃないだろうか?