第138話 クピピコの活躍
文字数 1,028文字
僕はクピピコを手の平に乗せて、飾り格子のすきままで持ちあげた。
クピピコは十センチの体を丸めて、そのすきまから室内へ入りこむ。格子をつたってカギのところまでおりていく。
窓のカギは掛け金式だ。金具をフックにかける一番シンプルなやつ。
だから室内側からなら、誰にでもあけられるんだけど——
ただね。僕は考慮に入れてなかったね。クピピコの腕力を。
クピピコは格子を足場にして、カギのところまで行くと、両腕で掛け金の突起部分をかかえて、思いっきり持ちあげようとする。うーん、うーんとうなる小さな声がガラス越しに聞こえた。
だが、ビクともしない。
いったい誰だ? こんな頑丈な掛け金とりつけたヤツ。身長十センチの戦士には掛け金部分が、すでに自分の丈とほぼ変わらないんだぞ? もっと小人をいたわってくれ。
クピピコは持ちあげるのが不可能だと知ると、掛け金の反対側にぶらさがり、自分の全体重をかけて、回転させようとした。勢いつけて掛け金の端っこに飛びのると、やっと少し掛け金が浮きあがる。掛け金はさびて固くなっているようで、持ちあがったまま動かない。
だけど、そのせいで、クピピコは勢いあまって、出窓の天板に落っこちてしまった。そこには鉢植えが飾ってあった。小さい鉢が倒れて大きな音を立てる。
ダダダッとかけよってくる足音がドアの外まで近づいてきた。
僕はぽよちゃんをかかえて、あわてて防火水槽のところまで逃げていく。
室内に二足歩行の服を着た竜みたいなのが二体、入ってくるのが見えた。まだ戦ったことないモンスターだけど、あれもそうとう強そうだ。たぶん、終盤に近いころに戦うことになるモンスター。
室内をウロウロしたものの、クピピコは小さすぎるんで、彼らは気がつかなかった。首をかしげながら部屋から出ていく。
よ、よかった。見つかってたら抹殺されてたよ!
ほっと息をついて、僕は窓のところまで戻っていった。たまりんもフワフワついてくる。
窓のなかでは、クピピコが顔を真っ赤にして掛け金を持ちあげようと頑張っていた。
ごめんね。僕に代わってあげられるなら、いくらでもそうするんだけど。
だけど、さしも固い大岩のようなカギも、クピピコの奮闘の前に、ちょっとずつ屈していった。
そして、ようやく、掛け金が直角に持ちあがる。そこまで行けば、窓をあけることができる。
よくやった! クピピコ。君は英雄だ!