第280話 ガブキング戦!3

文字数 1,335文字



 蘭さんが言った。

「今回、バランがいないから、ターン経過を待つ意味ないですよね。それどころか、あいつ、自分にスピードアップの魔法かけてる。たぶん、『もっと巻き』なんだろうな。こっちは『巻き』だから、ターンが長引けば、それだけ素早さに差がひらいてしまう。短期決戦ですね。早めに倒してしまわないと。僕はブレイブツイストをかけます」
「そ、そうだね」

 たしかにこれ以上に素早くなられると、もう僕らの攻撃が当たらなくなる。

 蘭さんは叫んだ。
「ブレイブツイストー!」

 ん? でも、アレだな。
 今日の蘭さん、この前のときほどキラキラしてない。
 どうしたんだろう?
 銀ちゃん戦のときの蘭さんはまぶしかったけどな。

 やっぱり顔文字の効果が薄かったんだろう。ブレイブツイストのダメージもいつもほど強くないようだった。
 通常攻撃の十倍のダメージのはずだけど、500ダメージあるかなって感じだ。二匹の竜の姿も途中でうっすら消えていく。ガブキングの触手と花が数本ちぎれた。

「あ……すいません。ダメでした」
「だ、大丈夫だよ。HP半減はしたんじゃないかな」

 僕はけんめいになぐさめた。
 が、その直後、蘭さんは「あッ!」と大きな声を出す。

「一回しか行動できません」
「えっ?」

 一回しか行動できない。
 つまり、蘭さんの素早さが、ガブキングとならんだってことだ。ガブキングのステが蘭さんに追いついた。
 ま、マズイ。
 このままだと僕らは反撃のチャンスを持てなくなる。
 さっきでさえ、僕らの攻撃は回避されたのに、もっと素早くなられたら、もう当てることはできない。
 このまま、スカスカかわされるだけで、こっちのHPをちょっとずつけずられていくんだ。

 蘭さんが思案する。
「直接攻撃では回避される。魔法攻撃なら、素早さ数値の影響が少ないから、これからは魔法攻撃で行きましょう。火属性の魔法がヤツの弱点です。アンドーも火属性魔法使えますよね?」
「うん。まだ『もっと燃えろ〜』だけどね」

 ところが、そう言ったきり、アンドーくんは動かない。

「アンドーくん? 攻撃しないの?」
「えっ? 動けんよ? かーくんだないの?」
「えっ? 僕?」

 変だな。さっきはたしかに僕の順番、三番めだった。
 なんで急に二番めに?
 んんー?

 うつむきがちに考えこむあいだ、ついつい、つまさきで足ぶみしてしまった。
 そのとき、妙な感覚が。
 ふわっ、ふわっと体が軽くなったのだ。
 えーと?

「あっ、思いだしたぞ! 風神のブーツだ!」

 これ、歩くたびに自分に装備魔法の『巻きで行こう〜』がかかるんだった。さっきのターン、ガブキングのところまで走っていって戻ってきたから、そのぶん僕の素早さは上がってる。

 そうか! これだ。
 この装備魔法はターンに関係なく、歩いたり走ったりするごとに自動で発動する。歩けば歩くほど速くなれる。

 僕は「ちょっと待ってねぇ」と仲間に宣言して、ガブキングのまわりをひたすら歩きまわった。走ると疲れるんで、歩く。
 百周とは言わないけど、五十周はしたかも? 足元からフワフワと軽くなる感覚がなくなるまで歩いた。
 よしよし。これで、スピードアップ上限の1000%まで達したかな?

「よし。じゃあ、行くよ?」

 僕はかけ声とともに走りだした。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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