第310話 国境にて
文字数 1,225文字
まもなく、馬車は国境についた。
二国の国境は見あげるような巨大な壁に阻まれている。
以前はこうじゃなかったんだろうな、たぶん。
壁のまんなかに馬車が一台通れるほどの鉄の扉があった。
そこが関所だ。
ボイクド側からの扉はらくに通りぬけられた。
問題はそれに対峙する形で五十メートルほどさきに立ちふさがるミルキー側の扉だ。ミルキー……ぜんぜん、甘くない。なんて塩対応な関所だ?
だって、鉄扉の前で僕らの進行をさえぎっているのは、三階建ての家より巨大で真っ赤なウロコのドラゴンだ。
三十メートル手前で、先頭の馬車が止まったんで、僕らも停車した。
馬車をおりてドラゴンを見あげているワレスさんのところへ、僕らは走っていった。前の馬車から蘭さんや三村くんたちも降りてくる。
「なんですか? アレ。あんなドラゴン、前は配備してなかったですよ?」と、蘭さん。
ワレスさんが言った。
「火竜だな。ドラゴンのなかで、もっとも数の多い種類だ。ミルキー国は今や魔物の巣窟だ。門を守るのがドラゴンでも、まったく不思議はないね」
蘭さんは悲しそうに顔をふせた。
自分の国が魔物にじゅうりんされてるところを目の前につきつけられれば、誰だってツライ。
「どないするんや? あそこ、通れるんかいな?」
「ムリだない? 通してごさんでしょう」
「戦うしかない」と、ワレスさんは断言する。
「僕の危険察知能力によると、あの火竜はレベル25。HPは18000。ほかの数値はわからないけど、行動パターンはファイヤーブレスですね。かなり強い、とは思う」
そうか。戦闘前なら危険察知でわかるんだったな。
僕ら、ドラゴンはホワイトドラゴンとしか戦ったことない。ホワイトドラゴンはレディーな神竜だったし、ふんいきからして、目の前の火竜とは違った。
「これまで僕らが倒したボスのなかで、一番HP高かったのでも、フェニックスの一万だよね。ホワイトドラゴンは四千くらいしかなかったはず」
「でも、これを倒せなければ、悪のヤドリギは倒せない。僕はやります!」
蘭さん、熱くなってるなぁ。
僕らの会話を聞いていたワレスさんが、急にニヤリと笑った。
「腕試ししてみるか? 特訓でどのくらい強くなったのか、見てみたいだろ?」
「そうですね。僕たちでやります」
「条件付きでやってみろ。自動発動以外の魔法やスキルは使わず、直接攻撃だけで倒せ」
「……えっ?」
意気込んでいた蘭さんも青ざめた。
ワレスさんはニヤニヤしてる。
「おれがNPCでついてやるから、前衛四人でやってみろよ。これだけ、うしろに補欠がひかえているんだ。万一のことがあっても怖くない。それとも、自信がないのか?」
蘭さんの負けず嫌いに火がついた。
もしかして、ワレスさん、わざと蘭さんを乗せてるのかな?
「いいですよ。直接攻撃だけでやってみます」
「回復魔法は使ってもいいことにする」
「それは、どうも」
なんか変なことになったなぁ。
わざわざ強敵相手に制限つきで戦うなんて。