第100話 虹の谷
文字数 1,944文字
この世界はなんで、こんなに僕を甘やかすんだ。現実に戻ってから働けないじゃないか。
しかし、大金は嬉しいので、どんどん拾っていく。
遠慮なんかしないよ?
一回につき七、八千円ずつ拾うもんだから、みるみる所持金がたまっていく。怖い。怖い。
さて、何度か戦闘しながら進んでいくと、やがて、あのふたまたの道にたどりついた。
「ここをまっすぐだよね」
「ええ。この前は、ここからさきには行ってないんですよね。出口が見えてきました」
光のアーチが前方に見えてきた。
ここを出たら、また山道だよね。
高所だと三村くんは進めなくなってしまうかも?
それはそれ。
仲間を交代すればいいんだ。
出現モンスターもそんなに強くない。
あのさきに僕の小銭無双が待っている〜
ワクワクしながら、光のなかへと足をふみだした。
そこは今まで来た場所のなかでも、ばつぐんのロケーションだった。
道幅はフェニックス行軍の空中回廊よりかなり広く、馬車でも余裕で行ける。
そして、ゆるやかな崖に挟まれた両側は滝になっていた。大きな滝、小さな滝が何百も重なって、数えきれないほどの虹が出ている。
きれいだなぁ。
癒されるぅ。
こういうとこはさ。妖精とか住んでるよね。うん。
そんなことを考えながら、ぽけーっと虹をながめていると、さっそく出た!
モンスターだ。
野生のコビット(戦士)が現れた。
野生のコビット(魔法使い)が現れた。
野生のコビット(僧侶)が現れた。
ああ、これも可愛いモンスターだ。
小人だよぉ。
クマりんより小さい小人が、コロコロと草むらから走りでてきた。
身長十センチ。
おそろいの服を着て、魔法使いは女の子なのか頭に花つけてる。
こ、これは、戦うのがしのびないなぁ……。
「ああ、可愛いなぁ。ぽよちゃんに乗れそうなサイズだねぇ」
「いいけど、戦わな」
「なんだか気がひけますね」
「いやいや、あかんで。だいたい、これまでも油断してるとヒドイめにおうたやんか」
「そうですね。じゃあ、ビシッといきますか」
しょうがないな。
逃げることもできるだろうけど、いちおう今後のためにも経験値は稼いどかないと。
それに勝ったら仲間にできるかもしれないしね。
なんだか、いつもと戦闘の音楽も違う。妙にほのぼのしてるのは、なんなのか?
「なんとなくイジメてるみたいで気分がよくないけど、やりますね」
蘭さんはドラゴンテイルをふるった。
ピシ、ピシ、ピシ!
三連発。
そして、そのとたんに、戦闘勝利の音楽に変わった。
コビットたちを倒した。
経験値15を手に入れた。
三円を手に入れた。
コビットたちは宝箱を落とした。
小人の剣を手に入れた。
「えッ? もう終わり? もう? 早すぎない? 僕、なんにもしてないよ?」
「おれもやで」
「おれもだけん」
蘭さんだけで倒してしまった。
しかも入手経験値が十五とか、勝利報酬が三円とか安い。安すぎる。スライムと同じか? いや、こっちは一体一円ってことだ。スライムより安いんだけど?
「後味悪いですね。やっぱり逃げだせばよかったかな」
「うーん。そうだね。小人の剣って、どう見ても針なんだけど……」
僕らのなかの誰も装備できそうにない。
これは、アレだ。
人間の家屋のなかにコッソリ借り暮らししてる小さい人たちが使う用の武器だ。
「ごめんなさい。早くよくなってね」
よっぽど悪いと思ったのか、蘭さんは自分のカバンから薬草をとりだして、目をまわしている三人のちっちゃい人たちのかたわらに置いた。
僕も、そっと戦士の手に小人の剣を持たせた。どうせ持ってても、僕たちには使えない。
「では、行きましょう」
立ち去ろうとしたときだ。
コビットたちが目をさました。
パチパチとまばたきして、薬草に気づくと熱いまなざしを蘭さんにそそぐ。
「コピコピ。クピピコピ。コピ?」
「コピコピクピー」
「クピッピコピ」
むう。猫語と人形語が話せる僕だけど、コビット語はよくわからなかった。
「なんか言ってますね」
「あっちのほう指さしてるみたいな」
「わからんわ」
すると、馬車のなかからスズランがおりてきた。
「コピコピ? クピピ?」
なんと! コビット語、話せるのか。
さすがは祈りの巫女。
神秘的。
しばらく、スズランはコビットたちと話していた。
そして告げた。
「村についてきてほしいと言っています」
うーん。村か。
さきは急ぎたいけど、ここはしかたないよね。こんなおチビさんたちに頼まれたら断れないよ。