第152話 三階には何があるのかな?
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ほかにも気になる本はあったけど、時間がないので、とりあえずミャーコポシェットにつっこんでおく。
これは泥棒じゃないよね?
持ちぬしが生きてるようすがないし。
世界的に大切な本だから、ちゃんとしたとこで保存したほうがいい。
合流できたら、蘭さんかワレスさんに渡そう。
ようやく図書室をあとにして、僕らはろうかを歩いていく。
エンカウントはするけど、たいていは竜兵士だ。二階では、たまにお供でブッキーがいっしょに出てきた。
二階には、図書室以外にこれといった場所はなかった。
アンドーくんの言っていたモンスターがウジャウジャいる部屋を見つけたけど、そこには入らないでおいた。
モンスターも眠るのか、みんな、おとなしく床によこたわっていた。
そうだよね。ぽよちゃんだって寝るもんね。
何室か同様の場所があった。
なんで、こんなにモンスターがいっぱいいるんだろう?
エンカウントのモンスターじゃないみたいだし、妙だなぁ。
まるでモンスターの生産工場のなかにでもいるみたいだぞ。って、まさかね。そんなわけないか。あはは。
二階はあらかた見たから、次は三階だ。階段をのぼっていくと、窓があった。
やっと窓だ。でも、そこから外に出ることはできない。窓をあけて真下を見ると、切りたった外壁には足がかりになるものが何もない。高さは三十メートルくらい。さすがお城だ。民家の三階とはわけが違う。
「あっ、かーくん。見てごしない。馬車が出ぇよ」
言われて、僕はアンドーくんの指さすほうをながめた。
廃墟の表口から、ぞろぞろとモンスターたちが出ていき、馬車に乗りこんでいる。怪しいキャラバンが出立するようだ。行きはモンスターを詰めこみ、帰りには人間を詰めこむのか。
行きはモンスター。帰りは人間……。
う、うーん。なんだろう。
この胸の内のザラつく感覚。
イヤな予感がするぅー。
行きと帰りの荷物の違い。
戦闘不能になると人間に変身したモンスター。
そこはかとなく、イヤーな感じが……。
*
三階を調べてまわると、ありがたいことに装備品が隠されていた。これまでにつれてこられた人たちの装備品が全部まとめられているようだ。
武器は武器。防具は防具。装飾品は装飾品と、別室にわけられている。
「このなかから僕の装備品、見つけるのか……」
「まあまあ。見つからんよりいいがね」
「そうだけどさ」
最初にとりもどしたのは銀の胸あて。
蘭さんに貰ったものだからね。大切にしないと。まだまだ使えるし。
それにしても膨大な数。
見ると、ほとんどは黒金とか、青銅とかなんだけど、なかには高級そうな装備品もある。
「これ……自分のじゃないのを持っていったらダメだよね?」
「それはちょっと、いけんだない?」
「だよね。神様に怒られそう」
さっきの図書室の本とは違って、これらには、まだ持ちぬしがいそうだ。
最終装備にできそうなゴージャスなやつもあったけど、目をつぶって見ないようにした。
銀の胸あて、次の部屋では破魔の剣、そのあと次々に、旅人の帽子や鋼鉄の盾などもとりかえす。
ばあちゃんの御守りは、よろい下の私服のなかに隠してたから、とりあげられてなかった。装飾品の部屋は素通りしてもよかったんだけど、ドアをあけてみたとき、「あッ」と声をあげて、ナッツがとびこんでいった。
「ナッツ。一人で先に行ったら危ないって。モンスターが出てくるし」
ナッツは僕の言葉なんて聞いてない。
「これ、母ちゃんの首飾りだ!」
ナッツは装飾品の山のなかから、質素な木のビーズのネックレスをとりあげた。ナッツが手にとると、ぼうっと白く光る。
「やっぱり、そうだ。ここに母ちゃんはつれてこられたんだ。この建物のどっかにいるんだ。母ちゃん……」
僕の胸はドキドキした。
あのイヤな予感がザワザワ、ザワザワと、はらわたをなめる。
ナッツのお母さん、ほんとに、ここにいるのかな?
もし、いたとしても、ほんとに今もナッツのお母さんなのかな?
もしかしたら、出会わないほうがナッツも、ナッツのお母さんも幸せなんじゃないかという不安が、僕の脳裏をよぎった。