第16話 蘭さん、お嫁に行っちゃうのか?

文字数 1,346文字



 それにしても、ワレスさん。こうして見ると、生みの親の僕でさえ、その迫力に気おされるなぁ。目つきが鋭い。スキがない。たぶん、レベルがすごく高いんだろうなぁ。

 彼はきっと今、僕のことをポヨポヨだと認識しているであろう。
 ポヨポヨは来るときにワールドマップで出会ったラブリーなウサギ形モンスターだ。

 はぁ。それにしても、このゲーム、女の子が出てこない! 切実!

「わたしは結婚などしません。それは兄が勝手に決めたことです」と、蘭さんが断乎とした口調で抗議した。

 ワレスさんは不敵に笑う。

「貴国では王の勅命(ちょくめい)は絶対ではないのですか? 少なくとも、わが国では絶対ですが」
「それは……」

 蘭さんが言葉に詰まった。
 やっぱり、王様の命令には逆らえないのか。蘭さんパパが引退しちゃってたのが残念だよね。

 しばらくして、蘭さんは吐息をついた。

「……わかりました。でも、出発は明日にしてください。せめて最後に父や母と一晩すごさせてくださってもよいでしょう?」
「かまいませんよ」

 ああ、蘭さん。せっかく逃げだしたのに、あきらめたのか。
 まあ、相手が悪いよね。
 ワレスさん、ちょっとやそっとじゃ、ひきそうにない。

「では、私もこの城に一泊させていただきましょう」
「どうぞ」

 わあっ、ワレスさんと同じ屋根の下だぁ。僕の英雄よ。その姿、この目に焼きつけておくぞ。
 とか喜んでられないよね。
 蘭さん、どうするのかなぁ?


 *

 ワレスさんたち一行が王の面前を辞したので、僕もそのあとを追いかけていった。サイン、貰わなくちゃ。

「あの、ワレスさん。サインください!」

 色紙、色紙は……ない。
 ないのか。
 なんかないのか?
 Tシャツにマジックでもいい!

「ああ、ダメだ。なんにもない。じゃあ、せめて握手。あと、写真撮らせて。スマホは持ってるから!」
「スマホ……?」
「あっ、なんでもないです。魔道具みたいなもので。はい、バター」
「ほう。面白いものを持っているんだな。おまえ、名は?」
「かーくんです!」
「かーくんか。魔法使いか?」
「いえ。駆けだしの冒険者です。ワレスさんみたいなカッコイイ騎士になりたいです!」

 ああ、ワレスさんが僕を見て微笑んでる。憧れのアイドルにぐうぜん遭遇したときの気分。幸せ〜。
 わかってる。わかってるぞ。たぶん、部下のアブセスと僕が似てるとか思ってるんだ。僕のほうが天然だけどね!

「そうか。今夜は早く寝ておけよ」

 ワレスさんはそう言って去っていった。
 んん? どういう意味だったんだろ?

 となりで三村くんが、ぼそりと言った。

「なんや、うさんくさいやっちゃなぁ」
「ええ? カッコイイじゃん」
「男のくせに綺麗すぎるわ」

 それなら、蘭さんだって——と思ったけど、言わないでおいた。
 蘭さんは、たぶん、男の娘だ。
 でも、そのことを世間に隠してる。
 男だと知れると、お兄さんに暗殺されちゃうからだろう。

 うーん。ということは、隣国の王様と結婚なんてできないよ。
 どうする気なんだろう?

 その夜、僕らは言われたとおり早く寝た。何かが起こると確信していたからだ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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