第337話 地下牢脱出!

文字数 1,535文字



「コピコピ。ピココピピ。コビットコン、ピラー!」

 うーん。あいかわらず難解な言語。コビット語。
 でも、コビットコンっていうのが、コビット王とか、コビット王の剣とかを指してるらしいことは、これまでの会話でなんとなくわかった。
 たぶんだけど、クピピコがコビット王の剣をたずさえてお助けに参りましたぞよ、とかなんとか、そんなことを言ってるんだと思う。

「ありがとう。クピピコ。じゃあ、さっそく、僕らをつついてもらえるかな? あっ、ちょっと待って。小さくなったら預かりボックス持ちあげられなくなるから」

 僕はカバンから出して床に置いていた預かりボックスを、ミャーコポシェットに収納する。
 どんな大きなものも際限なく吸いこむミャーコ。食いしん坊。持ちぬしの個性が適用されたのか?
 近ごろは僕が見つけたお金を指さすと、自動で吸いこんでくれる。まあ、額が増えて、いちいち拾ってたら時間かかるんで、行軍の支障になるからさ。

「えーと、今日だけでも五百億拾ってるなぁ。預かりボックスに入れたら、預かり所に預けたあつかいになるよね? ちょっと入れとこ。全滅してもなくさないし、傭兵呼びのとき、いっぺんに大金使わなくてすむし」

 五百億円だと百分の一でも五億円だ。
 使うのはかまわないんだけど、所持金が減ってしまうと、それだけ敵に与えるダメージも減ってしまう。全財産なげうつって技が使えるようになったときのために、できるだけ出費は抑えておきたい。

 僕は財布のなかのお金を、ザラザラと預かりボックスになげこんだ。
 その上で預かりボックスをポシェットに入れた。

「はい。いいよ。準備オーケー」
「コビットコン、ピラー!」

 チクンっと足元に注射ー!
 毎度なんだけど、それなりに痛い。

「かーくん殿。拙者の技が今一度お役に立ちもうして、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)にござる」
「ありがとう。ちょっと痛いけど、助かったよ。アンドーくんと、イケノくんもよろしく」
「お任せあれ! 行けー! コビット王の剣よ!」

 なるほど。『コビットコン、ピラー!』は、コビット王の剣よ、行け! なわけね。
 ちょっとずつ覚える他種族言語。

「アイテテ」
「イタっ」

 アンドーくんとイケノくんも注射の洗礼を受けて、ぐんぐん体がちぢむ。ニ〇スの冒険ふたたびだ。

「わあっ、こまなった。こまなった。これ、どげしたで?」

 イケノくんは初めてだから、はしゃいでる。

「うん、まあ。説明はあとでするとして、早く逃げだそう。もしも見まわりの兵隊が来たら困るから」

 身長十センチの僕らは、五センチ間隔の鉄格子のあいだを、なんなくすりぬける。スルっとね。もう、スルっと。

「このさいだからさ。このまま、地下を探索しようか。ロランが話してた秘密の地下道っていうのを探そう」
「そげだね」
「うまくしたら、問題の鏡も見つけられるかもしれないしね」
「うん。行ってみらか」

 地下牢のなかは、まだダンジョンではないようだ。
 ろうかの両側に鉄格子で仕切られた牢屋がならんでいる。
 牢屋の数、多いなぁ。
 ミルキー城はミルキー国の王都の城だから、犯罪者の数も多いんだとは思うけど、それにしても百室はある。

 コビットサイズの僕らにとって、くまなく歩きまわるには、ちょっとやっかいな広さだ。

「……ふう。疲れてきたね。もとのサイズに戻る?」
「でも、そげしたら兵隊に見つかぁだない?」
「そうか。脱獄が知れ渡るといけないもんね。兵隊の配備が厳しくなってしまう。アンドーくんの隠れ身はずっと使えるわけじゃないから、肝心なときのために、とっときたいしね」

 そのときだ。
 ハツカネズミサイズの僕らの前に、赤い目をピカピカ光らせた巨大なモンスターが現れた!

 ギャー! どうしよう。
 猫? ノラ猫? それか、ドブネズミとか?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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