第361話 悪のヤドリギ
文字数 1,468文字
ヤドリギ——
それは宿り木のこと。
つまり、自分以外の木に寄生する種類の植物だ。
ほかの樹木の枝に根を張り、養分や水を吸いとって生きている。
植物だから、まだイメージはマシだけど、これが虫だと、とにかく気持ち悪いよね。ロイコクロリディウムとか、サナダムシとか、広東住血線虫とか。
もう字面がイヤ。
コイツがなんとなく薄ら寒いような気色悪さを感じさせるのは、寄生虫の持つ不気味さなのかもしれない。
人の心に宿って宿主をあやつる。
その存在としてのいやらしさだ。
コイツが悪のヤドリギか。
みんなを苦しめてきた極悪人。
いや、人じゃないから、極悪魔物。
僕は絶対、コイツを許さないぞ。
ポルッカさんやアンドーくんのお母さんに、よくもあんなヒドイまねしてくれたな。
見つめていると、そいつはヘラヘラと笑いながら、ブラン王に憎悪を植えつけようとした。
「さあさあ。わかっているんだよ。ブラン? おまえは妹が憎い。殺したいほどだ。そうだね? ブラン?」
「ち……違う」
「違わないだろう? もうほんとの気持ちを偽るのはおやめなさい。わたしはおまえなんだからね。おまえの心の奥にひそむ、ほんとうのおまえだ」
聞いてると、だんだん腹が立ってきた。
僕はガマンならなくなって、とびだした。
「王様! だまされちゃダメだ。そんなヤツの言うこと聞いちゃいけない! あなたのほんとの心だなんてウソっぱちだ。そいつは、いろんな人に取り憑いて、心をあやつろうとする悪い魔物ですよ!」
大声を出したんで、僕だけ隠れ身が解けたらしかった。
ヤドリギが底意地悪い目つきで僕をにらむ。
「……むう。来ましたか。勇者。まあいい。おまえのことはあとでゆっくり始末してさしあげましょう。ほほ。今はこっちのお楽しみのほうがさきですよ」
悪のヤドリギは、すうっと鏡のなかから浮きだしてくると、ブラン王の口から体内に入りこんだ。
「あッ! 王様!」
ブラン王の目つきが変わる。
ヤドリギのカケラに憑依されたんだ。
なんてことだ。
目の前で取り憑かれてしまうなんて。
というか、ブラン王って、最初から取り憑かれてるわけじゃないのか?
変だなぁ。
言動がおかしいって話だったんだけど、毎晩、こうやってカケラを移しこまれてたのかな?
昼間、ふつうに見えたのは、そのときにはカケラが消えてるから?
うーん。
もしかしたら、この人はものすごい強い意志の持ちぬしなのかもしれない。
これまでヤドリギに取り憑かれた人は、誰も自力ではカケラを自分のなかから締めだすことはできなかった。
この人は蘭さんを殺したくないって気持ちで、ずっとヤドリギに抗ってきたんだ。
それにしても、あれはヤドリギのカケラでしかないみたいだ。
ヤドリギの本体はどこにいるんだろう?
とにかく、ブラン王を正気に戻さないと。
「王様! 待ってください」
呼びとめるのも聞かず、ブラン王はさっきのどんでん返しを使って、部屋から走りだしてしまった。
そうだよね。ヤドリギのカケラに取り憑かれてるんだから、待てって言って、おとなしく待ってくれるわけがない。
あわてて追いかけようとしたけど、カギがかかってしまったのか、それともこっちからは開かないのか、どんでん返しはビクとも動かない。
「かーくんさん。さがっていてください。壁を爆薬で破壊します」
「えっ? 爆薬?」
「さようです。こんなときのために大砲の玉を小型にしてもらいました」
壁、ふきとばしちゃうのか。
RPG的には不正解な気がするけど、このさい、それでもいい。
早く王様を追いかけないと!