第319話 襲いくる村人

文字数 1,255文字



 目の前に現れたのは、たしかに村人だ。パジャマみたいなものを着て、頭に三角の帽子かぶったおじさん。
 目をとじてる。
 絵に描いたような鼻ちょうちんが、おじさんが呼吸するたびに、ふくらんだり、しぼんだりしてる。
 寝てるみたいだ。
 寝ながら歩いてるのか……。

 とりあえず戦闘だ。
 村人だから戦いたくはないんだけど、ヤドリギのカケラにあやつられてるんなら、とりだしてあげないといけないし。

「えっと、ちょっとずつコツンとして、殺さないように戦闘不能にしようか」
「そげだね」
「僕は(さや)付きのままで戦うよ」
「じゃあ、わは杖で戦う」
「それがいいね」

 短剣だとトドメが発動してしまうかもしれない。

「ぽよちゃん、聞き耳……」
「…………」

 そうだった。ぽよちゃんは寝てるんだったな。おじさんたいに寝たまま戦うことはできないのか。

 しょうがないので、前衛は僕、アンドーくん、たまりん、シルバンだ。シルバンはもともとHPや力の強い肉弾戦タイプだし、今は戦士の職業についている。バランのように“かばう”ことはできないけど、即戦力にはなる。
 ぽよちゃんとケロちゃんだけが猫車でお留守番。

 いろんな数値を爆上げした僕は、メンバーのなかで素早さもぶっちぎり。
 とうぜん、一番手は僕。

「じゃ、行くよ〜」

 かるく足ぶみして、少し素早さを上げてから、僕はおじさんの背後にまわりこむ。
 あんまり深手にならないで、ダメージをあたえる場所……。
 お尻かな?
 子どもがイタズラすると、お尻ペンペンされるよね?
 けど、おじさんのお尻をペンペンすると、僕の剣が汚れそうな気がして、イマイチやる気になれない。

 しょうがないので、ひざの裏をかるく叩いてみた。いわゆる、ひざカックンだ。おじさんはカックンとなって……見事にカックン!——

 いや、違うぞ!
 おじさんはカックンとなる寸前で、とつじょタコみたいにグニャリとひるがえった。
 えっ? えっ? なんだ、今の?
 ぐうぜんか? それとも酔拳の達人?

 テロップは語る。


 村人は夢遊拳を使った!
 かーくんの攻撃はかわされた!


 むーん。夢遊拳?
 聞いたことないけど、もしかして、夢遊病の拳法ってことかな?

「どうしよう? 攻撃をかわされるよ」
「かーくん。もしかして、魔法攻撃だないと、きかんだない?」
「うーん。そうかも」

 こういう村の状態のときは、たいてい最後にボスが出てくる。
 ボス戦のためにMPはとっときたいんだけど、そうも言ってられないようだ。こんなとこでモタモタしてたら、蘭さんたちが危ない!

「しょうがないね。魔法で行こうか」
「うん。わがやるよ? もっと燃えろ〜!」

 これで、さすがに倒せたかな?
 言ってもただの村人だし、HPだって、そんなに高くないに違いない。

 安心、安心——と思ってたのに、次の瞬間、信じられないことが起こった。
 おじさんの鼻ちょうちんが異常にふくらんだ。大きく大きく、どこまでも大きくなって、アンドーくんの炎攻撃をけちらしてしまったのだ。

 なんだ? このおじさん。
 もしかして最強村人とかなのかっ?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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