第218話 ポルッカ屋敷(一階)
文字数 1,882文字
玄関にカギはかかっていなかった。キイっと軽い音を立てて、両扉がひらく。
玄関ホールが見える。
なかは無人だ。
だぁーれもいない。
見た感じ、ふつうの屋敷……いや、ちょっとふつうとも言えないかな。
やけにぬいぐるみとか女の子のお人形とか、いっぱい飾ってあって、壁紙も可愛いイチゴもよう。
小さい女の子でもいるのかな?
「こうやって見ると魔物なんか出そうもないけど……」
「油断したらあかんで。玄関前にバジリスク隊長おったんやからな」
まあ、そうだ。
野生じゃないモンスター。
それは明らかに魔王軍の魔物だ。
なんで、こんな一般人の家に魔王軍が?
僕らはそっと家のなかに入った。
あたりまえに考えたら、どうやっても不可能なはずなのに、なぜか馬車で入れてしまう。そんなバカな。物理法則に反してる。
でも、たいていのゲームでは不自然な場所へも馬車で入れたもんな。きっと魔法だぁ。あはは〜
「誰もおれへんな」
「でも、小銭拾うから、ダンジョン化はしてるよ」
一回につき十六万拾うよ。
街に帰るまでに稼がないとねぇ。
ひそひそ話しながら歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。女の泣き声だったような?
こ、怖い……なんで泣き声?
そ、そうだった。この近くでは女の人が行方不明になるんだ。
まさかと思うけど、さらわれた人が、こっ……殺されたり……?
ひぃっ。そんなのヤダよっ。
僕がブルブルしてると、背後から物音が。
「な、何? 今の?」
「かーくん。ここにはゾンビは出らんだない?」
「ゾンビの話なんかしないでよぉ」
「かーくんは肝が細いけんねぇ」
ううっ。どうせ、ぽよぽよですよぉ。
トコトコ——
「や、やっぱり、なんかいる! 足音した!」
「おるなぁ」
「な、なんだろう?」
今度は僕らの前を影がよぎった。
子どもかな? 小さい。
ビクビク。ドキドキ……。
トコトコトコ——
いきなり、テロップが流れた。
野生のクマちゃんが現れた!
野生のケロよんが現れた!
野生の女の子が現れた!
野生の女の子ってなんだよっ?
この世界って、なんかツッコミどころ満載なんだよなぁ。
*
野生の子グマちゃんが出てきたときに、僕は気づくべきだった。
目の前にならんだ三体のモンスターは、全部、ぬいぐるみだ。
野生の女の子っていうのも、人間じゃなく、黄色い毛糸の髪をおさげにした人形だった。
ちょっと、ホッ。
いくらキテレツな世界だからって、女の子が野生なわけないか。
「野生のモンスターもいるんだね」
「ほんまやな」
僕らの会話に、クルウが答える。
「おそらく、この屋敷は今、魔王軍の何者かに占拠されています。その者の魔力で屋敷のなかがダンジョンと化しているのです。庭でもそうでしたが、出てくるモンスターはこの屋敷にもともとあるものが姿を変えて現れているのだと考えられます」
「なるほど。じゃあ、大元の魔王軍のヤツを倒さないと、この屋敷はこのままなんですね?」
「そういうことですね」
「なんで、魔王がこの屋敷に目をつけたんでしょう?」
「屋敷のなかに魔王にとって都合の悪いものがあるのかもしれません。ポルッカさんは小さなコインを集めてきた人にお礼の品を渡していました。貴重な品物が多いようですから、そのせいでは?」
「なるほど」
あっ! またまた話しこんでしまった。
戦闘中だった。
子グマちゃんやケロよんが待ちくたびれた顔してる。
可愛いなぁ。ひさしぶりに文句なくプリティーなモンスターだ。可愛いモンスターいっぱいってタグはウソじゃないんですよ。いや、ほんと……。
子グマちゃんは色がクマりんとは違う。クマりんはピンクだけど、この子は水色だ。首に結んでるリボンが紫色。
ケロよんはデフォルメされまくったカエルね。黄緑色でお腹がポッコリして白い。
女の子は前述のとおり、おさげでワンピースを着てる。不思議の国のアリスみたいなエプロンドレスだ。頭にボンネットもかぶってる。
「戦うのがかわいそうな感じ……」
「子グマちゃんは油断しとったら、こっちがやられんで」
「そうだけど」
とりあえず、聞き耳だ。
僕がぽよちゃんに頼もうとしたとき、馬車のなかからクマりんがとびだしてきた。子グマちゃんの姿を見て、ガマンできなくなったようだ。
そういえば、ぽよちゃんも黒ぽよや茶ぽよが出てきたとき、気になってたみたいだもんな。
「かーくん。クマリンが戦いたいみたいやな」
「しょうがないね。じゃあ、アンドーくん、交代で」
「うん。いいよ」
ってわけで、こっちは僕、ぽよちゃん、バラン、クマりんだ。
戦士系ばっかりになったな。
バランスよく戦えるかな?