第240話 魔法の秘伝書
文字数 1,520文字
魔法の秘伝書。
それは、秘伝書を使用することによって、本来、魔法をおぼえられない人でも魔法を習得することができる奥義書だ——と、青白い魔法使いの説明でわかった。
「ほら、この世には魔法使いに転職できないヤツもいるだろ? そんなヤツらのためのアイテムだよ。ただし、どんな魔法でも覚えられるわけじゃない。いちおう、秘伝書ごとに習得のための条件がある。レベルとか、知力の数値とか。属性ってのがあって、もしも苦手な属性を生まれつき持ってれば、その属性の魔法は身につかないんだ」
「なるほど。モンスターにも水属性のやつとか、火属性のやつとかいますよね。人間もそうなんだ?」
「人間のほとんどは、とくに属性はない。でも、まれに苦手とする属性はある。逆にすべての属性を得意とするヤツとか」
「ふうん」
「魔法使いの素質があるやつは、得意な属性を持ってることが多いよ。あんた——」と言って、魔法使いは蘭さんを指さした。
「すごく珍しい。金の属性を持ってる」
「金?」
「金星のと言ったほうがわかりやすいかも。魅了とか、誘惑とか、あやつるとか、そういう系の魔法」
うっ。誘惑系の勇者。
「金の属性は職業では覚えられない魔法なんだ。数は少ないけど、おもしろい攻撃ができる」
まあ、たしかに魅了とか、甘えるとかの得意技があるね。
「僕は? 僕は? 僕はないの?」
ワクワクしながら聞いてみた。
青白い魔法使いは、じっと僕の目を見る。
「…………ぽよぽよ?」
なんだよ! それ。
ただの見ためじゃん!
ぽよぽよ差別反対!
「ぽよぽよ属性ってあるんですかっ?」
「ないよ。あるわけないだろ」
自分で言ったくせに……。
「ま、いいや。で、どんな魔法があるんですか?」
「今あるのは、これくらい」
「えーと——」
「ああっ! それ以上、近づかないで!」
めんどくさいなぁ。
人間アレルギー。
魔法使いがカウンターの上に、薄っぺらい冊子を何冊か置いてあとずさった。
そのあと、やっとカウンターに近づくことをゆるされて、僕らは冊子をひらいた。
表紙の色は属性のようだ。
赤は火属性。青は水属性。黄色は風属性。ピンクが金属性のようだ。ほかにも白い表紙は聖属性。黒は闇属性。
表紙をめくると、最初のページに覚えられる魔法の呪文が書かれていた。
みんな、死なないでェー!( ;∀;)
うおっ。いきなり全体蘇生魔法?
白い表紙のやつだけど。
全体に効果ある蘇生魔法なんて、あのゲームではなかったはずなんだけど。
「これ! 買います。いくらですか?」
「あっ? それ、五万」
げっ。たけェー。
まあ、そうか。全員を復活させられる魔法だもんね。
しかも一回おぼえたら、何回でも使えるんだ。一回でなくなる魔法カードとは、わけが違う。
「いいけど。それの習得条件、厳しいぞ? レベルは四十以上、知力250以上、大賢者をマスターしてること」
「えっ? てことは、大賢者でも職業習熟だけでは覚えられないんですか?」
「うん。世の中には、けっこうそういう魔法ある」
「そうなんだ」
「上位クラスの職業ほど、あんまり呪文は覚えなくなるんだ。たいていは魔法一つくらい。でも、職業マスターしたときのマスターボーナススキルが美味しいからな」
「ふうん」
てか、賢者の上に大賢者まであるんだ。さきは長いなぁ。
「たしか、大賢者のマスターボーナスは自己流詠唱可能だったんじゃなかったかなぁ?」
「えっ? ほんと?」
思わず僕がカウンターにつめよると、魔法使いは背後の壁に激突するほど、とびすさった。
「ひいッ。人間! 近よるな!」
「……あなたも人間じゃないんですか?」
「おれはおれ以外のすべての人間がダメなんだよぉー」
もういいや。
無視して、秘伝書をえらぼう。