第306話 夢の邂逅

文字数 1,181文字



 ワレスさんは信じられないような顔つきで、数分ものあいだ、僕を凝視していた。
 視線が青い。
 X-RAYビーム照射ー!
 もうレントゲンで体のなかを透視されてる気分だよね。

「まさか、

なのか?」と、さっきと同じことを再度くりかえしてきた。

「は?」
「おまえがハシェドを知ってるわけはないんだ。なぜなら、

から」
「えっ?」
「ほかの連中はいるのに、ハシェドだけがいない。クルウやホルズたちも、最初、おれのことを覚えてなかった」

 ん? それって?
 なんか、僕ら兄弟の状況と……?

「えっと、まさか、あなたも

だと思ってました?」

「ああ、そうだよ。砦の自室で就寝して、真夜中に妙な気配を感じたから目がさめた。すると、自分の世界とは似て非なる世界に迷いこんでいた。最初は夢かと思ったが、それにしては、いつまでたっても覚醒しないしな。司書長がいたから相談すると、彼女もおれと同様だった。おそらく、なんらかの魔法で、おれたちは別次元の世界に転移している。戻るためには、かけられた魔法を解くしかないということだった」

「ああー! 僕らとまったく同じですよ。僕と兄ちゃんもそれにやられて、急にこんな世界に」

「だからか。どおりで妙な力を持っていると思った」
「妙ですか?」
「得意技を持ってるやつは全員、自覚のあるなしにかかわらず、別の世界からつれてこられた連中だろうと、おれと司書長は話している」
「自覚のあるなしかぁ。蘭さん——ロランのことですけど、ロランは現実でも僕らの友達なのに、こっちの世界では僕らのこと覚えてないんですよね。シャケやアンドーくんも」

 そう言えば思いだしたけど、この前、銀晶石の森の遺跡のなかで見た美少女の像が変なこと言ってたっけ。

 あなたやお兄さんや、

この世界に呼びよせたのは、わたしです。とかなんとか。

 あのとき、気づくべきだった。
 あなたやお兄さんや、ほかの多くの人たちって、美少女は言ったんだ。
 つまりは、僕と兄ちゃんだけが召喚されたわけじゃない。もっともっとたくさんの人が、この世界に集められているんだと。

 僕はそのときのことをワレスさんに語った。美少女が話した言葉をなるべく忠実に思いだしながら。

 ワレスさんは黙って聞いていた。
 そして、僕の話がすむと、熟考を重ねるような顔つきで口をひらく。

「やはり、か。この世界の謎を解き、魔王と呼ばれる存在を消し、世界に平和をもたらす。でないと、おれたちにかかった何者かの魔法は解けない。そういうことだな?」
「そうみたいですね……」

 うう。ただの夢だと思って、のんきにかまえてたのに、まさかの異世界召喚だった!
 やだよぉー。おうちに帰りたい。
 僕らがいないあいだ、京都の町家で蘭さんは一人、どうしてるのかなぁ?
 それとも、やっぱりロランが蘭さんなのかなぁ?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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