第267話 大商人になりたい!

文字数 1,212文字



 僕は聞いてみた。
 こんなときしか、ワレスさんと話せない。いや、違うよ? ミーハーな気持ちからじゃないよ?

「僕も今、僧侶だから、戦士と盗賊をおぼえて、弓使いになれますか?」
「商人だったんだろ? なら、なれるだろう。むしろ、僧侶になれなくて断念するヤツが多い」

 そうなんだ。よかった。

「あっ、商人からなれる上級職ってありますか?」
「商人、盗賊、遊び人で大商人になれるんじゃなかったかな」
「ちなみに、それ、ワレスさんは?」
「ああ。マスターしたよ」

 この人、どんだけ職業マスターしてるんだ。職業集めるのが趣味なのかな?

「大商人になると、なんかいいことありますか?」
「戦闘勝利報酬が1.5倍になるな」

 それだけか! 後衛可能スキルみたいなスゴイのを期待したんだけど、そこまで美味しくはなかったか。ふつうの人なら喜ぶだろうけど、僕は外を歩けば金貨なんてザラザラ拾うしな。

 僕がガッカリしたのを察したのか、ワレスさんは笑った。

「モンスターのドロップする宝箱に複数の種類があるとき、必ずもっともレアなほうが手に入る。それと、ダンジョンに銀行員を召喚して、どこからでも貯金の出し入れができるようになる」

 なるほど。戦闘には役立たないけど、地味に嬉しいスキルばっかりだな。とくに銀行員呼びはありがたい。昨日みたいにお金をムダ使いしなくてすむからね。

 僕はそれだけでも満足だったんだけど、ワレスさんは恐ろしいことを言った。僕と相対するモンスターにとっては、死ぬほど恐ろしいことを、だ。

「それと、傭兵呼びの威力がパワーアップする。そのとき所持しているすべての金を払って、所持金の額のダメージを敵全体に与える『全財産なげうつ』という技が使えるようになる」
「えっ? 総額?」
「そう。総額」
「あの……僕、一回のダンジョン探索で二億円とか拾うんですが?」
「じゃあ、モンスターに二億ダメージだな」

 えへへ。へへ。
 二億ダメージだって。
 ふへへへへ……。

「僕、がんばって大商人になります!」
「ああ。がんばれ」

 二億ダメージなんて、ラスボスでも一瞬で倒せるんじゃないの?
 そのときの僕の勇姿を想像すると、もうヨダレが止まらない。
 人間って嬉しさのあまり壊れることもあるんだね。

「職業経験値は基本的には戦闘回数だ。ただし、モンスターが自分にくらべて弱くなりすぎると、どんなに戦っても習熟度が加算されなくなる。おまえたちのレベルなら、サンディアナ周辺あたりが楽に倒せて、習熟度をかせげるな。最初に到達したときからプラスレベル10くらいまでと考えるといい」

 なるほどね。弱い敵でよければスライム狩りでもいいことになっちゃうもんね。

「わかりました。明日からはサンディアナ付近で、職業ランクを上げる特訓をします!」

 僕はついでに、つまみ食いね。
 明日も楽しみだなぁ。
 どんどん強くなってく僕。

 だけど、そのとき、僕は気づいてなかったね。蘭さんの表情が沈んでることに……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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