第349話 ミルキー城地下後半戦

文字数 1,141文字



 回復の泉を出発して、すぐに僕は気づいた。
 なんだかあたりの空気が変わった。
 暑い。ガマンできないほど暑い。
 それに脇道がなくなり、まっすぐ地下深くへくだる道一本になった。

 ああ、この感じ。
 やな予感だなぁ。

「かーくん……」
「うん。なんか、いるね」

 前方に広い場所がある。
 スゴイ! マグマだまりだ。
 どおりで暑いはずだよ。

 オレンジ色に光るマグマが地下を満たしていた。その中心に岩場がある。そこに橋のような岩がかかっていて、岩場まで渡っていくことができる。
 似てるなぁ。ホワイトドラゴンと戦ったときの洞くつの最下層に。
 ということは……?

 ずっと暗闇を歩いてたから、溶岩の輝きが目にしみる。
 明るさになれたころ、僕らはそれをまのあたりにした。

 周囲の壁が蒸気でぬれてマグマの色を反射していることと、あたりが熱気で陽炎にゆらめいているせいで、たった今まで、

を認識していなかった。
 第一、

はあまりにも巨大すぎた。生物というより、岩壁や岩石のように思えた。

 中央の岩場のほとんどを占領し、天井に頭が届くほど壮大な、竜。
 火竜だ。ただ、ボイクド国とミルキー国の国境にいた火竜より、遥かに大きい。国境にいたやつでも、十メートルはあったと思う。けど、コイツは優にその三倍はある。
 火竜の王だ。

「ああ……もしかして、アイツをやっつけないと、さきに進めないのかな?」
「そげだない?」
「ええっ……ちょっと、僕たち一番ハズレのルート引いたんじゃない?」
「えっと……かーくんなら、やれェよ」
「そうかなぁ?」

 ははは、はははとあきらめにも似た乾いた笑い声をかわす。
 やれると思わないんだけど?

 でも、その巨大なドラゴンのいる岩場を通りこすと、対岸の壁に人間や馬車の通っていけそうなアーチ型の穴がある。そこに通じるかけ橋も見える。
 ただ、そこへ行くためには、どうやっても巨大火竜のいる中央の岩場を通っていくしかないってだけのことだ。
 そう。それだけのこと。

 つまり、火竜の王を倒さないと、そのさきに進むことはできない。

「えーと……たぶん、試練ってやつ?」
「そぎゃん感じかなぁ」
「でも、ふつう、そういうのって勇者の役目じゃない?」
「うん。でも、ここまで来たら、行くしかないだない?」
「う、うん……しょうがないね。行こうか」
「うん……」

 今回はダディロンさんも「最近の若者は不甲斐ないな」とは言わなかった。
 見ると、青くなってる。
 だよねぇ〜
 デカすぎるよねぇ。

 はぁ……行きたくないけど、行くか。
 これを倒さないと僕らに進む道はないんだ。
 今さら引き返しても、牢屋で待ちかまえた兵隊たちの集団に捕まるだけ。
 そして、火焙り……。

 一歩ふみだすと、戦闘音楽が鳴り響いた。


 野生のレッドドラゴンが現れた!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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