第140話 逃げるしかない!

文字数 1,627文字

 大勢のかけてくる足音が迫る。
 や、ヤバイぃー!

 そのときだ。
 窓の外にアンドーくんの整った顔がのぞいた。口に人差し指あてて「しいッ、しいッ」と静かにするように仕草で示してくる。

 アレだ。これは、アレを使ったという意味だ。

 僕は急いで、トーマスをタックルでベッドに寝かせる。トーマスが僕と同じくらい小柄でよかった。

 その瞬間にドアがあいた。さっきの二足歩行の竜が五、六体入ってきた。
 ドカドカと室内を歩きまわるけど、ひらいたままの窓から外をのぞいて首をひねる。

「誰もいないな」
「窓があいてるぞ?」
「風であいたのかもしれない」
「それはないだろう。カギがかけてあった。それに、見ろ。鉢植えが壊れないように外に出してあるぞ」
「勇者のやつがここに来たのかもしれないな。まだ近くにいるはずだ」
「ゴドバ様に報告だ!」

 来たとき同様にドタバタと去っていく。
 とりあえず、室内にいる僕やぽよちゃんにも、窓の外にいるアンドーくんにも気づいたようすがない。アンドーくんが隠れ身でパーティーメンバー全員をモンスターたちには見えなくしてくれたのだ。

「えっ? 何が? なんで、おれの実家に魔物が?」
「とにかく逃げようよ。早く!」

 あたふたしてるトーマスをせかして、窓から外へとびだした。
 急がないと、ゴードンが追ってくる!

 いや、違う。
 さっきの竜の戦士たちの言ったことがほんとなら、あれはサーカス団の団長なんかじゃない。
 豪のゴドバだ。
 魔王の四天王の一柱!

 どおりで、僕らなんかくらべものにならないほど強いはずだ。
 アイツと戦っちゃいけない。
 今はまだ、そのときじゃない。

 早く、このことを蘭さんたちに知らせないと。
 蘭さんがヤツらに捕まったら、世界中の希望がこの世から消えてしまう!
 どんなことがあっても、蘭さんだけは守らなくちゃ。
 なんたって、勇者だから……。

 ともかく、ギルド前広場まで無事に戻ってくることができた。

「トーマスはここで、王都やほかの街から援軍が来るまで待ってて。なかにお母さんもいるし、街の人たちを守ってあげてください」
「わかった。シルキー城を襲ってきたようなドラゴン軍団にはかなわないけど、今の街のなかをウロついてるモンスターなら、おれにも倒せそうだ」
「ギルドにはほかにも戦士がいるから、その人たちと力をあわせて」
「ああ。助けてくれて、ありがとう。このお礼は後日、必ずするから」
「そんなことはいいんだけど、一つだけ教えてほしいんだ」
「うん。何?」

 ほんとは一分でも早く、蘭さんと合流しないといけないんだけど、トーマスからシルキー城襲撃の夜の話を聞かないと。

「ロランの両親はどうなりましたか?」
「おれは前王やお妃様のもとまでたどりつくことができなかった。でも、ボイクド国から来た兵士たちが守ってるって話を仲間から聞いた」

 うーん。それは僕らも知ってるんだよね。ワレスさんから、ちょくせつ聞いたから。
 でも、なんかまだ聞くことあったっけ。そうそう。思いだしたぞ。

「シルキー城を襲ってきたのは裏切りのユダだったって? トーマスはその姿を見たって話だけど」

 トーマスはうなずいた。
 そして真剣な顔で、とても信じられないようなことを言いはなった。

「見たよ。さっきの竜人の戦士みたいなヤツらが、ユダ様って呼んでたから、まちがいない」
「どんな男だった?」
「黒いフードつきのマントをかぶってた。顔はよく見えなかったけど、背の高い男だった。マントの下は黒金の装備で、見た感じ、まるで人間みたいだったんだが……」

 黒い……フードつきのマント?
 黒金の装備?
 背の高い、人間の男、みたいな……。

「ウソだ! そんなはずない!」
「ウソじゃない。この目でちゃんと見たんだ。フードの下は黒髪だった。巻き毛みたいだったな」

 そんな、バカな。
 そんなの——そんなの…………みたいじゃないか。

 絶対、ありえない。
 うちの猛が……。
 僕の兄ちゃんが魔王軍の四天王だなんて、信じないからねッ!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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