第21話 夢の小銭街道は危険地帯

文字数 1,586文字



 お、恐ろしい。
 さっきから、ものの十歩も歩くと、五十円玉やプラスアルファの十円玉が数枚落ちてるんだけど?
 たぶん、もう所持金はさっきの三百五十円をとっくに超した。
 すると、するとだ。
 次に落ちてたのは、ついに百円玉!
 う、嬉しい。百円は嬉しいよ?
 ハアハア。嬉しすぎて動悸が。

 しかし、嬉しいだけじゃない。

「止まって。このまがりかどのさきに敵がいます。僕の察知能力によると、敵は一体。だけど、レベル40のスネークドラゴンだ」

 なんと、便利な。
 敵の数や種類や、ましてやレベルまでわかるのか。

「わかった。おれが一人で行く」

 そう言って、ワレスさんは一人でまがりかどを進んでいく。
 あっ、戦闘音楽、聞こえた。
 僕は廊下の角から顔を出して、そのようすをながめる。

 うわー。さすがレベル47のホーリーナイト! 人間技に見えないんだけど?
 いきなり先手で、トグロを巻いたスネークドラゴンの背後から巨体に駆けあがり、首のつけ根に一閃。鮮血がしぶく。カーテンみたいに噴きだしてくるそれをかわし、スルスルと肋骨(ろっこつ)づたいに刃を移動させていく。

 当然、スネークドラゴンは暴れた。
 毒霧? これはポイズンブレスなのか?
 巨体の周囲二メートルが黒紫色の霧に覆われる。

 ちなみにスネークドラゴンは全長三十メートルはある。体高は五メートルくらいか? 黒い鱗のめっちゃデカイ蛇みたいなもの。

「毒霧はマズイですね。毒に侵されたら、どんなに強くても、一ターンごとに体力が減少する」

 僕のとなりから覗いていた蘭さんがつぶやく。

「ええカッコしぃやな。けど、どないかして手助けできひんのかなぁ?」
 三村くんも言う。

「戦闘音楽が聞こえてるってことは、たぶん、僕らも仲間のうちですよ」
「僕ら、なんか役に立つと思う?」
「かーくんさんなら、もしかしたら、レベルが上がれば、毒消しの魔法を覚えるかも?」
「そうか。プリーストっぽいもんね」

 でも、いかんせん、まだ僕のレベルは7。泣いても笑っても7だ。
 僕らにできることは、ただ見守ることのみだ。


 *

 毒霧のせいで、ワレスさんの華麗な戦いっぷりがよく見えない。

 すると、そのとき、とつぜん、霧が晴れた。ワレスさんが何か聞きとれない言語で呪文を詠唱したのだ。
 たぶん、この人の母国語のユイラ語だな。ちなみに発音はフランス語のイメージ。
 この人、魔法も使えるんだよねぇ。
 僕が小説のなかで、そういう設定にしたから。
 やっぱカッコイイなぁ。
 あれくらい強かったらキモチイイだろうなぁ。

 ワレスさんはマントをなびかせて、スネークドラゴンの尻尾の攻撃をよけた。軽いフットワークで竜の背中をとびおりると、前にまわって下から喉元をかき切った。

 すると、ゆっくりとスネークドラゴンの首が前に傾き、すべりおちてくる。

「あっ、終わっちゃう。僕らも戦闘に参加しましょう」
「えっ? 今さら?」
「いいから。いいから。かーくんさんのためですよ? ほら、尻尾でも叩いて」
「う、うん」

 カッコイイ人のカッコイイ姿を横目に、僕は今にも末期のきわのドラゴンの尻尾を、銅の剣でコツンと叩く。ぽこぽこからコツンに進化した僕の攻撃。

 直後に派手な音楽。

 チャラララッチャッチャー。
 チャラララッチャッチャー。
 チャラララッチャッチャー。
 チャラララッチャッチャー。
 チャラララッチャッチャー。

 何回、鳴るんだよ!
 僕はいっきにレベル5もあがった。
 これって、ほとんどバグじゃないのか? いいの? おこぼれでこんなレベルアップして?


 ——戦闘に勝利した。経験値3000を得た。5000円を手に入れた。竜の牙を手に入れた。


 美味しいなぁ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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