第380話 イケノくん戦!7

文字数 1,364文字



「バカやろう! さっさとしないと手遅れになるぞ!」

 ワレスさんに罵られた。
 ですよね。すいません。

「でも、母上が……」

 蘭さんは自分のお母さんのことだ。判断がにぶってる。
 僕がかわりに指示を出す。

「シルバン! ミダスタッチ! ロランのお母さんを石化させて」

 シルバンはうなずいて走りだしたけど、素早さ数値が低いからね。
 夢遊拳のロレーヌ様に、ヒョイっと軽くよけられた。

 見かねたワレスさんが舌打ちをついて、ロレーヌ様のまわりに竜巻を呼んだ。身動きをとれなくしたのち、その中心に雷を落とす。
 ロレーヌ様は戦闘不能になった。
 ワレスさんはロレーヌ様を抱えて戻ってくる。

「今だ、やれ!」

 そのあいだにも、イケノくんの体は膨張し始めていた。
 僕はあわてて叫んだ。
 傭兵呼びじゃ心もとない。
 もう、まにあわないかもしれない。

「全財産なげうつ〜!」

 わあッと(とき)が響き、ダカダカと、よろいの集団が現れる。
 イケノくんの姿はよろいに囲まれ、まったく見えなくなった。

 なにやらボコボコにされてるようで、ヤドリギの悲鳴が聞こえた。
 王様の体のときに一回、これで二回めの総額なげだ。
 ヤドリギにはこれでも足りない。
 コイツのせいで、世界中の人が苦しんでる。
 僕たちの知ってる人たちだけじゃない。僕らの知らないところでも、コイツの起こした悲劇が数えきれないほどあっただろう。
 そのすべての人の思いと痛みだ。
 たっぷりと味わってもらわないと。

 数分後、よろいの集団は去っていった。
 床にイケノくんが倒れてる。
 さすがに戦闘不能だろう。
 ところがだ。
 出だしでちょっと手間どったせいだろうか。

 どう見ても死体にしか見えないイケノくんが、ズルズルと不自然に動く。
 体じたいが手足を使って這ってるわけじゃない。まるで、見えない手でひっぱられているようだ。人形がひきずられるように、スッ、スッと硬直したまま床の上をすべっていく。

 あッ! 喉のところがモコモコしてる。プツン、プツンと少しだけ肉がゆらいだ。
 ヤドリギだ。カケラが悪あがきしてるんだ。
 ここから逃げだし、増殖の種を使って、まだ再生しようとしてる。

 僕がかけだそうとしたときだ。
 そっと、アンドーくんが手を出して制止した。

「アンドーくん」
「わにやらせてよ。セイヤを自由にしてやらんと」
「うん……」

 アンドーくんはかけだした。
 ナイフを片手に、イケノくんの上に馬乗りになる。

 刃がきらめいた。
 アンドーくんはイケノくんの喉に、切っ先をつっこんだ。
 イケノくんの口から、人でも獣でもないような轟音が発した。
 トドメだ。
 わずかに残った増殖の種に、その一撃はクリーンヒットしたようだ。

 あけたままのイケノくんの口から、黒い霧が炎のように立ちのぼった。
 その霧は人の顔のように見えた。悪のヤドリギだ。鏡に映っていた青い肌の薄気味悪い男。

「あれが本体だ!」

 僕が叫ぶと、蘭さんがうなずく。

「最後はみんなでやりましょう。みんな、行くよー!」

 蘭さんの号令のもと、その場にいる全員が最強の呪文を唱える。
 風や雷や炎や水が、いっせいにヤドリギの本体を襲う。
 霧は水や氷で冷やされ、風にさらされ、雷に打たれて粉々になり、さらにはカケラも残さず焼きつくされた。

 やった……。
 今度こそ、やったんだ。

 悪のヤドリギを倒した!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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