第359話 これが問題の鏡?
文字数 1,216文字
細長い一室は、どっちかと言うと古い遺跡のろうかにあとから手をくわえて、両端を壁でふさいだって感じ。
天井が高いし幅もあるので、馬車でも充分、入りこめる。
「かーくんさん。おつかれさまです。ご無事で何よりですね」
「あっ、どうも。クルウさん。だいぶ待ちましたか?」
「いえ。三十分ほどです」
「すいません。レッドドラゴンがいたので、ボス戦で長引いちゃって。そっちは大丈夫でしたか?」
「こちらはガーゴイルやゴーレム、バジリスク隊長などの固くて火力の強い連中でしたが、ボスモンスターはいなかった。こちらも力でごり押ししましたので」
「僕らは火祭りでしたよ。出てくるのが全部、火属性」
「なるほど。そちら側だったら我々も苦手だった」
両側から歩みよって、まんなかで言葉をかわす。クルウたちのほうにも回復の泉があったのか、見たところ疲労はない。
「……これが問題の鏡ですね?」
「ですね」
僕らはその鏡を見なおす。
どこと言って変わったところはない、ふつうの鏡だ。
もちろん、一般の家庭にあるような鏡かと言われれば、そうじゃない。とても大きいし、縁どりの装飾も黄金製で、ひじょうに豪華だ。そこをのぞけば、よくある楕円形の姿見。
「これをどうしたらいいんですかねぇ?」
「毎晩、ブラン王が来て、のぞくわけですよね? そのようすをながめることができれば」
「あっ、でも今日はロランたちと会食だから、王様、こんなところまで来てるヒマないんじゃないですか?」
「どうかな。すでに来たあとなら、丸一日近く待たなければならなくなる」
丸一日……ヤダ。そんなのヤダ。
もうご飯もないし、あるのはお菓子だけ! それにこっち側から、さっきの回復の泉に帰るには、どうしたらいいわけ? トイレは? 部屋のなかじゃ、さすがにそのへんでしとけばってわけにいかないよ?
ちょうど話してたときだ。
頭上のほうから、コツコツと靴音が細く聞こえてくる。
「誰か来る」
「そのようですね。ブラン王かもしれない。隠れましょう」
「隠れるって、どこへ? 馬車は? うちのは小さい猫車だけど、そっちは立派な四頭立ての戦車でしょ?」
「もう一度、さっきの場所に戻ることができればいいのだが」
早口で話してると、アンドーくんが遠慮がちに会話に割りこんできた。
「わとセイヤが隠れ身使ええけん、両方のパーティーにわかれて、一人ずつついたらどげだ?」
ごもっともです!
「じゃ、お願い」
「わかった」
アンドーくんはクルウたちの隊といっしょに、さっきの仕掛け扉の前まで馬車ごと下がった。
僕らは僕らの入ってきたほうの壁ぎわに下がる。
僕らの目から見て、クルウたちの隊が消えた。隠れ身が使用されたのだ。
「イケノくん。お願い」
「うん。任せて」
自分ではわからないけど、たぶん、僕らの姿も消えたんだと思う。
息を殺して待っていると、静寂のなかにコツコツと足音が近づいてきた。
まもなく、あの鏡のむこう側で止まる。
誰かが、入ってくる。