第79話 森をぬけると
文字数 1,894文字
ようやく森をぬけた。
ちょっと、たまりんに苦戦したので四十五分もかかってしまった。
蘭さんがそれは美しい銀の懐中時計を持ってるので、時間はわかる。
この世界も一日が二十四時間なんだな。何もかも僕の世界と同じで助かる。
ブラボー。僕の夢。
現実の僕よ。コタツで寝てるはずだけど、風邪ひくなよ?
「ああ……なんだ、ここ。怖いよ。崖って、フェニックスの出る場所だけじゃないんだ」
僕が悲鳴のような声をしぼりだしてしまったのもしかたない。
だって、これは怖い。ある意味、絶景というか。今は真夜中で、あんまり足元が見えないからいいけど、これ夜が明けて、まわりが見えたら、めちゃくちゃ足ふるえるぞ?
なんと、そこは切りたった断崖絶壁にジグザグにへばりついた細い道だった。
馬車がやっと通るくらいの幅だから、約一メーメル二十センチかな。
まあ、人間が通るぶんには問題ないんだけど、高さが問題だ。
空中回廊。
そう。これから、僕らはこの断崖ぞいの細道を何時間も登ったりおりたりするはめになるのだ。
高所恐怖症なら、見ただけで立ちくらみするだろう。
「わあっ。すごいですね。きっと朝になったら、キレイなんだろうな」と、蘭さんははしゃいでる。
蘭さんはジェットコースターもお化け屋敷も高いところも、ハラハラするようなものが大好きだからね。
僕はまあ、高所は人なみ。
どっちかっていうと好きなほうかも。
蘭さんみたいにウキウキまではしないけど。
すると、最後尾からついてくる三村くんが、妙に元気がない。
「シャケ。大丈夫? 疲れたの?」
「いや、ちゃうけど」
「どっかで一回休んで、夜食でもとれるといいんだけどねぇ」
「いや、かめへんけど」
ん? なんか、ようすが変だぞ?
「まさかと思うけど、シャケって高所恐怖症なの?」
「こ……怖くなんかないで? ほ、ほんまやで?」
さては怖いんだ。
それでも行くしかないんだけどさ。
*
そこは山肌に張りつくように続く迷路だ。
天然のものなんだろうか?
それとも、誰かが峠を越すために造った人工物なんだろうか?
「暗くてよく見えませんね。何度もジグザグしてるけど、ちゃんと進んでますよね?」
「あっ、ロラン。そこに洞くつあるよ。宝箱置いてあるかも」
「そこは縄ばしごだから馬車ではあがれません」
「じゃあ、僕行ってくる」
「キュイ」
「ぽよちゃんもついてきてくれるんだ〜」
「キュイ〜」
ときどき点在しているほら穴には、たいてい宝箱が隠されていた。ミミックの即死系魔法は僕には効かないからね。へへへ。全部、かたっぱしからあけて集めないと。
ぽよちゃんと二人でほら穴の奥へ行くと、やっぱり宝箱があった。なかには鉄かぶとが入っていた。
よしよし。ぽよちゃんにも装備できるぞ。
「ぽ〜よちゃん。鉄かぶとだよ。木の帽子ととりかえようね」
「ピュイ〜」
鉄かぶとにはツノの飾りがついていた。ネジ込み式になって、とりはずしが可能だ。外すと、ちょうどそこから、ぽよちゃんの長い耳が出せる。
「ぽよちゃん。だいぶ勇ましくなってきたねぇ」
「キュイキュイ!」
そのときだ。ほら穴の奥から風が吹いてきた。
「あれ? このほら穴、向こうがわもどっかに通じてるんだ」
気になったんで、ちょっと歩いていった。
あいかわらず小銭拾いながらだ。
モンスターは出るらしい。
気をつけないと、ぽよちゃんと僕だけで戦闘はまだ厳しい。
慎重に歩いていくと、少し空が白んできたようだ。外が微妙に明るい。
そして、ほら穴の端に立った僕らは月明かりに浮かぶ街並みを見た。
山のふもとに遥か遠く、一軒ずつの家々は豆粒のようだけど、とても巨大な都市が一望できる。
高い城壁にかこまれた
「あれが、ボイクド国なんだ! スゴイね。ぽよちゃん。ミルキー城とその城下町の三倍くらいはあるよ」
「キュイ〜」
まだ遠く離れてるけど、目的の地をこの目で見て、僕の意識は高揚した。
こんなに離れていても、都会の風が香ってくる。
あそこにワレスさんがいるのか。
それに、蘭さんのお父さんやお母さんも、きっと無事にシルキー城から逃げだして、あの場所で蘭さんを待ってるに違いない。
だんだんと明るんでくる東の空。
地平線の彼方から、ゆっくりと昼の神が目覚めようとしている。
急がないと。
早く朝焼けの崖に行かないとね。
フェニックス戦かぁ。
緊張するなぁ。