第173話  地下で出会ったのは

文字数 1,998文字

「コピコピ。クピコピコ」
「クピピコ。ピコピコピー」
「コピ。クピピコ。クピ」
「コピピ? ピッピコピー」

 うーん。なんでこんなことになってしまったんだろう?
 僕は目の前でやりとりされる、小人とクピピコの会話を聞きながら頭をかかえる。わからない。会話の内容がまったく、わからない。

 とは言え、こっちにクピピコがいてくれたのは、ほんとにラッキーだった。
 じゃないと、僕らはこの暗闇のなかから永遠に出られなかった。

 坑道にいたのは、どうやらノームだ。
 コビット族やイバラの騎士よりは大きいが、それでも僕のひざくらいまでしか身長がない。頭に三角帽子をかぶり、ツルハシをにぎっていた。かたわらにカンテラも置いてあった。

 ノームもモンスターの一種ではあるんだろうけど、どっちかっていうと精霊に近い。地下鉱脈に詳しい地の精だ。白雪姫を助けた小人たちは、このノームだったって話だ。比較的おとなしい性質の精霊である。

 まあ、それでも僕らだけなら警戒させたんだろうけど、クピピコがそこのところ、しっかり説明してくれたようだ。僕らが火事からコビット族の村を救ったこととか。悪いモンスターからコビットの女の子を助けたこととか。

 何を話してるのかはサッパリわからないものの、ノームはうなずいて手招きした。
 よ、よかった。これで外に出られる。

 細い坑道を出たあと、あの地下水脈ぞいに僕らは歩いていった。
 光だ! 光が見える!
 前方に丸い光が見えた。
 日光だ。お日さまの光だ。

 僕らはようやく地上に戻ってきた。
 長かったなぁ。地下水道。もう地下は一生ぶん歩いた。

 洞くつをぬけると、やわらかい陽光がさしていた。あたりは森だ。春の萌黄(もえぎ)が目にしみる。花の香りがした。

 ふりかえると、木々のあいだに遠く、あの廃墟が見えていた。断崖絶壁の上に禍々しい姿を見せている。
 あそこから逃げだしてきたんだと思うと感慨深い。

「外だ! これで旅人の帽子を使って飛んで帰れます。案内、ありがとう。助かりました!」

 僕はお礼を言って、旅人の帽子を手にとった。装備魔法を使おうとしたんだけど、頭上からブーッとエラー音が降ってくる。

「えっ? 何?」


 現在地は地図にない地域です。
 移動魔法が使えません。
 と、テロップが教えてくれた。

 ええー! ここまで来て、まだ帰れないの? ウンザリぃー。




「ええー! 地図にないって、そんなバカな? 前に見たとき、ちゃんと赤い点がピコピコしてたよ?」
「ピコピコ? コピピコピ?」
「あっ、ごめん。コビット語じゃないよ」

 魔法の地図をとりだしてみた。
 たしかに赤い点はピコピコしてる。
 でも、前に廃墟のなかで見たときから、いっこうに動いてる気配がない。いくらなんでも五キロは歩いたんだから、少しは反応してもいいはずだ。

「これって、ほんとにこの場所なんじゃなくて、地図上に表せないってだけなんだ。だから、初期位置からカーソルが動かないんだ」

 うーん。ガッカリ。
 これじゃ現在地がどこだかわからない。

「せっかく脱出してきたのに、この場所が特定できないんじゃ、ギルドに帰っても、いい報告ができない」
「しょうがないが。キャラバンのことだけでも報告さんと」
「う、うん。そうだね。やつらが人間をさらってモンスターに変えてるってこと伝えないとね」

 それにしても、そのためにはまずギルドのある場所まで帰らないといけない。どうも、このへんにはギルドはなさそうだ。人間の街か村があるだろうか?

「そうだ! クピピコ。ここがこの地図のどのへんか、ノームに聞いてみてくれる?」
「クピ?」
「クピって言われてもよくわからないけど、ごめん。お願い」
「コピコピクピコピコー」

 意味はわからなかったけど、なんとなくバカにされたような気はした。
 しかしまあ、クピピコがノームに話を聞いてくれた。
 このあとコビット語の会話が続きますよー。

「ピコッピ。コピピラー?」
「ピコッピ。ココピコ」
「ココピコ?」
「クピ。コピクピ、ピコピコ、ピー」
 ——中略——
「クピクピ。ピコッピ。コンピッコ、ピラピコクピ」
「クピ! クピ!」

 もういいだろうか?
 きっとこの会話を理解できた人は誰もいないと思う。

 クピピコは僕に向きなおると、地図を指さして首をふった。コピコピ言ってるけど、仕草から察すると、この地図には載ってないということらしい。
 やっぱりそうなんだ。
 テロップは正しかったか。

 アンドーくんが考えこんだ。

「かーくん。諜報活動しとったときに聞いたことがああけど、もしかしたら、ここ、封印された大地かもしれんね」
「封印された大地?」
「この世のどこかには封印された大地が何ヶ所かあって、そこへの出入りは特別な扉を通らんとできんらしいよ」

 ん? 扉?
 僕はシルキー城の地下深くにあった扉を思いだした。
 それに旅人のウワサでも何度か扉の話を聞いた。

 ここって、その扉のなかなのか?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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