第256話 洞くつのなかは古代遺跡?

文字数 1,416文字



 一歩、その洞くつに入ったとたん、僕は異様なものを感じた。
 ここはこれまでの洞くつとは違う。
 ホワイトドラゴンの洞くつとか、フェニックスのいた山あいの洞くつとか、マーダー神殿への通り道にあった洞くつとか、そういうのは天然か、または天然の洞くつに少し人間が手をくわえたていどのものだった。

 だけど、ここの壁は上から下までが全部、人工物だ。洞くつっていうより、地下へ向かっていく建物の一部と言ったほうがいい。
 切りだした石が重ねられた壁や天井。それらを支える太い柱。柱には妙な生き物が浮き彫りにされてる。

 ここは遺跡だ。
 マチュピチュとか、インカとか、ああいうのを思いうかべる。

「なんで、こんなところに遺跡が?」
「ボイクド国は僕の国よりもっと古くからあって、あちこちに遺跡が残ってるとは聞いたことがありますよ」
「そうなんだ」

 失われた古代文明かなぁ?

 ゆっくりと地下へくだる坂道。階段じゃないんで、馬車も入っていける。
 壁にはレリーフがあって、古代の神話が描かれてるっぽい。
 火の鳥みたいなものとか、翼のある人とか。ゴーレムもいる。

「銀ちゃんたちって、ここのなかから出てきたのかな?」
「銀ちゃんって名前は保留だけど、きっとそうだと思いますよ。壁にも描かれてる」
「ええー。銀ちゃんでいいじゃん。最近になって、ここの環境に変化があったってことかなぁ?」
「シルバンとかどうですか?」
「うーん。悪くないんだけど、親しみにくいっていうか」
「シルバンがいいよね? ね? ゴーレム」
「銀ちゃんだよね?」

 銀晶石のゴーレムは困りはてたように、うなだれた。
 ハッ! モンスターに気をつかわせてしまった。

「いいよ。わかったよ。シルバンにしよう」
「じゃあ、シルバン。この奥に何があるの?」

 シルバンは首をかしげた。
 うまく説明できないようだ。
 声を発さないから、きっと、しゃべれないんだろう。

 それにしても、どんどん深くなっていくなぁ。
 あたりが暗い。
 平坦な道で、小銭拾いにはちょうどいいんだけど。

 風が吹きぬけていくのか、遠くのほうで、おおーん、おおーんという轟音が響く。
 そこはかとなく、嫌な予感がする。
 やだなぁ。

 やがて、僕らの前に大きな両扉が立ちふさがった。浮き彫りのされた石の扉だ。僕らが前に立つと、しぜんに両側にスライドしてひらく。

 なかを見て、ああやっぱりと、僕は思う。
 こんな気がしてたんだよなぁ。

 そこは三十メートル四方くらいの広い空間になっていた。天井もすごく高い。
 さっきまで人工物だったが、ここは天然の洞くつのようだ。
 あたりの岩はすべて、よく見ると銀晶石だ。暗闇のなかでもキラキラ輝いている。ものすごい量の銀晶石。これだけあれば、一生、合成に困らないだろうな。

 そして、その空間の一番奥のあたりに、天井につかえそうなほど巨大なゴーレムがいる。オーン、オーンと吠えているのは、このゴーレムだ。

 ゴーレムの足元には人間が倒れていた。
 あっ、わかった。ベロベロでも、ペペロンチーノでもない。ベベロンだ!
 銀晶石をとりにいったきり帰ってこないという行方不明者に違いない。

「かーくん。あの人、あのままじゃ殺されてしまいます」
「そうだね」

 すでにもう意識はなさそうだ。
 無防備にゴーレムの前にころがっている。
 ヤバイ! ゴーレムのあの体勢はフルスイングアームアタックに入る前だ。

 僕らはゴーレムの前に走りだした。


 野生の銀晶石巨兵が現れた!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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