第176話  深淵の滝

文字数 1,042文字


 ナッツのお母さんの処遇も決めなきゃいけないんだけど、そのためには情報が必要だ。

 僕らはノームのお母さんが出してくれた、塩からいベーコンとウズラの卵の目玉焼きと、とろっとろのチーズをはさんだバケットサンド、芳醇(ほうじゅん)な香りのオレンジ色のお茶をごちそうになりながら、ノームのおじさんから話を聞きだした。ちなみにおじさんはノーム村の長老だった。

「僕たち、人間界に帰りたいんです。どうやったら帰れますか?」
「今は廃墟になっとるだば、あのお城を中心に、この土地には移動魔法を禁ずる結界が張られておるだば。南の端の滝からとびこむしか、この土地を出ていく方法はないだばだば」
「た、滝?」
「深淵の滝と呼ばれておるだば」
「深淵の……」

 くわしく聞けば聞くほど、それはナイアガラの滝に匹敵する勇壮な瀑布(ばくふ)だとわかった。
 ナイアガラに飛びこむのか……。
 清水の舞台より高いよね。

 まあ、それしか方法がないと地元民に言われればしかたがない。
 これはストーリー進行上さけては通れない道なんだと思う。

 ただ、そうなるといよいよ、ナッツのお母さんをつれていくことはできない。生きてる僕らでさえ危険きわまりないのに、意識のない仮死状態の人を滝つぼになげこむなんてできないよ。

「ナッツのお母さんは、残念だけど、これ以上、僕らの旅につれていけない」
「そげだね。いくら仮死状態でも、おぼれて、ほんのこと息が止まってしまあかもしれん」
「でも、オレは母ちゃんといっしょでなきゃイヤだ!」

 それは当然だろう。
 子どもなのに三年ものあいだ離ればなれになっていたお母さんと、やっと会えたんだ。またもや離れるなんてできないだろう。ナッツはまだお母さんに甘えていたい年ごろなんだから。

 困っていると、ノームの長老が提案してくれた。

「だば、ナッツとナッツの母ちゃんだば、わしのうちで預かるだば。魔法毒が消えるまで、わしと家族で世話していいだば」
「えッ? ほんとですか?」

 グレート研究所長を倒すまで。
 あるいは、滝つぼ以外の脱出方法が見つかるまでだ。空を飛ぶとか、そんな方法を確保できれば、滝に身投げする必要はなくなる。

「ナッツはそれでいい?」
「うん。オレ、まだ子どもで弱いから、兄ちゃんたちといても迷惑かけるしね。ここで訓練して、強くなる!」
「わかった。それまでにはなんとかして、もう一度、この場所に来るよ」
「うん。約束だぜ? 兄ちゃん」
「よし。約束だよ」

 大丈夫。グレート研究所長とは、いつか必ず対決することになる。
 そんな予感がしていた。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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