第195話  重要会議1

文字数 1,335文字


「えーと、初めまして。かーくんです。恐悦至極(きょうえつしごく)とか言うべきなのかな? すいません。平民なもんで」
「よいよい。子どもは儀礼などこだわらずとも。さ、ここに座すがよいぞ」

 子どもじゃないんだけどなぁ……。

 僕はアンドーくんと並んで、長卓の一端の席についた。

「安心しろ。ここには信用できる者しかいない。だから、すべて正直にわが王に報告するがいい」と、ワレスさんが言う。

「どこから話しましょう?」
「そうだな。始めに勇者と出会ったところから」
「長くなりますけど?」
「ざッとでもいい。おれが聞いておきたいんだ。なんでもなさそうなことが謎を解く鍵かもしれない」
「謎?」
「なぜ、とつぜん魔王が復活したのか。魔王の正体とはなんなのか」

 うーん。ワレスさんの口から魔王って聞くことになるとは。
 ワレスさんの話にも魔物は出るけど、シリアスなミステリーファンタジーで、ゲーム要素なんかゼロなんだけどな。

 とは言え、情報はわけあわないとね。
 ワレスさんは優秀な探偵だ。僕の兄ちゃんも優秀な探偵だけど、謎解き合戦したら、どっちが勝つかなぁ?

「わかりました。じゃあ、話します」

 これは僕の見てる夢だ——と言ったところで、そこは信じてもらえないだろうから、とばすことにする。

 始まりの街であるミルキー城の城下町で、財布を忘れたまま買い物しようとして、逃げだしたところで蘭さんに出会ったことから、今にいたるまでの経緯を、僕の書いたこの小説を見ながら説明した。
 サンディアナでの攻防のあと、廃墟で見たことは、とくに念入りに。
 ただし、猛が裏切りのユダだってことはナイショにしといた。じゃないと、けっきょく夢のことも話さないといけなくなるし。

「なんと、人間をモンスターに。恐ろしいことをするものだ。これまで我々はそうとは知らず、人間同士で争っていたのか」と、コーマ王は悲しげな顔をする。

「ナッツのお母さんみたいに、あんまり長くその魔法にかかってると、魔法が解けたあとも目が覚めなくなってしまうんです」

 その話も王様たちには衝撃だったようだが、ワレスさんは一人、別のところに関心を持つ。さすが、推理王。

「その城、廃墟になる前は誰の城だった?」
「ハッキリとはわからないんですけど、絵本を持ち帰ってきました。ほかにも、その城の図書室にあった本を何冊か。これなんですけど」

 僕がミャーコポシェットから出すと、みんなはとびつくように本をめくった。

「なかなか興味深いことが書かれていますね。調べれば、場所の特定もできるかもしれません」と言ったのは、どこからどう見ても少女の司書長。これで五十代か。
「これらの本はわたくしどもが預かってもかまいませんか? 司書が総力で分析してみます」

 コーマ王がうなずいた。
「うむ。任せたぞ」

 僕はしゃしゃりでた。出るよ。ゲームクリアしないと帰れないからね。

「じゃあ、わかったことは僕にも教えてください。ナッツたちも迎えに行かないといけないし。それと、もしも廃墟の場所が特定できて、精鋭をつのって出兵することになったら、僕も参加させてもらっていいですか? グレート研究所長だけは、なんとしても倒したいんです!」

 ふたたび、王様がうなずく。
「よかろう」

 寛容な王様でよかった。
 会議はさらに続く。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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