第54話 まだまだ、まだまだ小銭無双

文字数 1,361文字



 というわけで、僕はまず防具屋の前に銀行へ走った。

「すいません。お金預けたいんですけど」
「はいはい。かーくんさんですね。いくら預けますか?」

 僕は考えた。
 まだ買い物もするし、全額じゃなくてもいい。
 最初、ワレスさんが倒してくれたスネークドラゴンの勝利報酬五千円から始まった小銭無双だ。
 五万円も持っていれば、その百分の一である五百円ずつ拾える。数十歩ごとに五百円って、けっこう、あっというまに一万たまるんだよな。
 ああ、アパレルショップで働く僕の時給のなんと安いことよ。

「じゃあ、七十五万」
「七十五万円のお預けですね? た、たしかに……承りました」

 銀行員の声がちょっとふるえてる。
 だよね。
 こんな序盤で、そんな代金預ける人いないよね。

「ただいま、全国銀行ギルドキャンペーンで記念の粗品をプレゼントしております。最初にその額に達したときに一回のみのプレゼントです」

 あっ、それもたしかヤン〇スの冒険じゃないか? あと倉庫を広げた容量とかでもプレゼントを貰えたはず。
 嬉しいサービスだな。

「かーくんさんの貯金が五千円に達しました。抽選券をさしあげます」
「はい。ありがとう」
「かーくんさんの貯金が二万円に達しました。小さなコインをさしあげます」
「はい。ありがとう」
「かーくんさんの貯金が八万円に達しました。抽選券十枚セットをさしあげます」
「はい。ありがとう」
「かーくんさんの貯金が二十五万に達しました。旅人の帽子をさしあげます」
「はい。ありがとう」
「かーくんさんの貯金が六十万円に達しました。流星の腕輪をさしあげます」
「はい。ありがとう」
「次は百万円に達したときに、妖精の羽衣をさしあげます。お楽しみに」
「はい。楽しみです」

 す、すごい。
 いっきに五つもアイテムを貰ってしまった。しかも、抽選券以外はお金では手に入らない貴重品じゃないか。

「わあっ、かーくん。よかったですね。旅人の帽子って、魔法装備品です。ワールドマップでなら、一度でも行ったことのある街やお城に帰ることのできる魔法が何度でも使えるんですよ」

 それは、あのゲームでも似たような装備品があった。かなり後半にならないと手に入らないアイテムだった。
 序盤でル〇ラが使えるようになってもいいのか?

 旅人の帽子は本来なら後半で手に入るはずのものだから、防御力もかなりいい。これ一つで今の僕が装備してるすべての防具より防御力が高い。防御力35だ。

 さらには腕輪。
 これは、なんと素早さの数値が倍になるという序盤では反則技にも近い代物。これも、例のゲームの丸パクリだ。さすがに著作権問題が心配になってくる……。

 僕もこれで蘭さん並みに素早く——と考えて、ためらった。
 僕が早くなるより、蘭さんがさらに早くなるほうが、パーティーとしては強いんじゃないか?
 蘭さんの鞭は敵グループを攻撃できる。あの鞭で三、四回、ビシバシしてくれたらザコ敵なんてイチコロだ。

「腕輪、ロランがしていいよ」
「えっ? ほんとに?」
「うん。僕は帽子があればいいから」
「ありがとう! かーくん」

 ニッコリ笑うと、ほんとにキュート。
 早くそっくりな双子の女の子とご対面したいもんだ。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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