第370話 兄上戦!4
文字数 1,928文字
はぁはぁ……まにあった。
はい。かーくんです。
やってきました。大広間!
蘭さん視点はいかがでしたか?
僕って、ちゃんとシリアスな小説、書けるんですよ〜
って、ハッ!
そんなこと言ってる場合じゃない。
蘭さんが血まみれで倒れてるじゃないか!
「ロラン! ケガしたの? 大丈夫?」
「ええ……スズランが回復してくれたから、傷はもう治ってます。ただ、流れた血は戻ってこないんですね。ちょっと貧血ぎみみたいです。ふらつくけど、戦えます」
「ムリしないで、ロランは後衛にまわってよ」
「そう……ですね。でも、あれは僕の兄なんです。まだ兄の心が残ってる」
僕は事情を聞いて憤った。
わあっ! サイテー!
やっぱり、ヤドリギ、やなヤツだー!
「ロラン! それはお兄さんでもなんでもないよ。お兄さんの魂は今、鏡のなかに封じこめられてるんだ。ヤドリギはたぶん、他人に憑依してるとき、その体の持つ記憶を読むことができるんだと思う。読んだ記憶を自分の都合のいいように改悪して吹聴してるだけだよ」
「そうなの?」
なんと! ミャーコの口からブラン王の魂が、顔だけ出してきた。
なんでもできるな。うちのミャーコ……。
「その者の言うとおりだ。頼む。私の体ごと、やつを倒してほしい。これ以上、王という私の立場を悪用され、国民や他国の人々まで苦しめることは、私が耐えられない。何よりも、たった一人の私の弟を悲しませたくない」
「兄上……」
「さあ、もう迷うな。それに体を失っても、私はこの鏡のなかにいる。たまになら会って話すこともできるだろう」
「わかりました。やります。それが兄上の望みなら」
蘭さんが立ちあがる。
決意を秘めた目は、ときおり見せる勇者の証だ。
どんな苦境にも屈しない強い心を持つ人。
だからこそ勇者に選ばれたのだとわかる。
「僕も前衛で戦います。さあ、行きますよ!」
あッ? 蘭さんの体が青く輝いた。
テロップが流れる。
ロランが『みんな、行くよ〜p(*≧︎ω≦︎)/ 』をおぼえた!
なんか、またイベントで新技を会得したらしい。
いいなぁ。勇者は。ちょっと羨ましい。
と思ってたら、なんだ? なんだ?
体が勝手に動くんですけど?
「全財産をなげうつ〜!」
えッ? ちょっと待って?
全財産?
あっ、やめてください。
ここに来るまでにいくら拾った、僕?
てか、僕、総額投げ、マスターしてたのか。そうだよな。洞くつ、お城の裏道と、ずっと連戦してきたんだから、そりゃマスターもするよね。
なんか黄金色のかたまりが銭湯のライオンの口からあふれる湯水のように、ダバダバと噴出する。
やめてェー!
僕の全財産……。
しかしもう、流れは止められなかった。
どこからともなく、ものすごい数の傭兵が次々と現れ、王様をなぐっては去っていく。それが延々と止まらない。
たぶん、二十分くらいは待った。
「……もうよくない?」
「一回、お金、出しちゃったら、それに見あうだけのダメージが与えられるまで終わらないんじゃないですか?」
「そうかも……なんで僕の技が急に勝手に出たんだろ?」
「ちょっと確認してみますね。えーと……『みんな、行くよ〜』の効果は、パーティー全員がそのときに発揮できる最強の攻撃技を自動で使う。術者以外のMP、ターン行動回数は消費されない。後衛も参加可能。行動順は素早さに準ずる。使用は1ターンに一回のみ」
「えーと……じゃあ、このあと、まだ、みんなが自分の最強技をどんどん使っていくってこと?」
「そうなりますね。かーくんが一番速かっただけで——あっ、僕の順番みたい!」
ようやく、黒いよろいの集団が消え去り、金塊の山も同時に消えた。
あーあ……僕の二千億が……。
きっと、今日は金難の相が出てるんだ。預かりボックスに入れといたお金も消えてなくなるし。
蘭さんは「ブレイブツイストー」と叫んで帰ってきた。術者でも攻撃の順番まわってくるんだね。
王様、とっくに死体だろうに……。
バランがなぐったり、ぽよちゃんが青い爪をきらめかせたり、クマりんがあばれたり、モリーがブレイブツイストふたたびだったり、ケロちゃんがウォーターフォールだったり、たまりんが死神の唄だったり、アンドーくんがトドメだったりしたあと、最後に素早さの一番遅いシルバンが、チョンとミダスタッチした。
王様は石になった。
ある意味、すごく長い戦いだった。
これらが全部、行動回数もMPも使用されずに行われたのだ。
通常なら、このあと、さらに自分たちの行動回数を使用して攻撃できるわけだ。今回はその必要ないけど。
そう思うと、『みんな、行くよ〜』はものすごい魔法だ。
僕のお金はなくなったけどね……。
さよなら。僕のお金ちゃん。くすん。