第40話 1バトル1毒

文字数 1,900文字



「はぁ……ムカデ。やっかいだね。かまれないように気をつけなきゃ」
「そうですね。僕ら、まだ誰も毒消しの魔法、使えないですからね」

 僕らはモンスターから勝利報酬を回収して、深い森のなかを歩きだした。

 それにしても、猛は見てるだけで助けてくれなかったなぁ。すごく強いはずなんだけど。
 ワレスさんはチャッチャッと倒してくれたぞ。兄ちゃん。

 小銭はあいかわらず見つけるんで、もうほとんど無意識だ。なんか体が勝手に動いて拾っていく。

「気をつけろよ。毒蛇もいるからな。蛇はさっきのやつらより、もっと強い。このへん、毒のステータス異常攻撃してくるやつらの巣窟(そうくつ)だからな」と、猛が助言してくる。

 そう言えば、さっきのふもとの村でも、そう言われたっけ。
 もっと毒消し草、買っとけばよかったかな? でもまあ、僕には蘭さんのお父さんがくれた毒消し草セット五十枚がある。まさか、これを使いきるほど毒にやられることはないだろう。

 なんて、思ったのが甘かった。

「ギャー! かまれた!」
「かーくん。顔青いで。毒消し草や」
「あッ。僕もやられた」
「毒消し草や」
「そういうシャケも顔色悪いよ」
「ああ、さっきムカデの足さわったときかいな」

 もう、阿鼻叫喚(あびきょうかん)とは、このことだ。
 一回バトルするごとに、必ず一人ないし複数、へたすると全員が毒異常になってしまう。
 僕の幸運度のおかげで、二回に一回はモンスターが宝箱をドロップするから、毒消し草の補充もできなくはない。ここらの敵の宝箱は、ほとんどが毒消し草だからだ。

 それにしても、毒を受ければ、そのぶんHPも減るわけで、そのまま戦闘に突入するわけにもいかないんで、回復魔法をひんぱんに使う。MPがどんどん、けずられていく。次の休憩場所まで、僕と蘭さんのMPが持つかどうかの勝負になってきた。

「ぎゃっ。また、かまれたー!」
「ハチや! ハチまで出てきよったで」
「飛ぶ毒モンスター、ズルイ!」
「注射より痛そう……」

 って、蘭さん。
 この世界にも注射はあるんだね。
 意外と医学が進歩してるんだな。
 薬草とお祈りしかないかと思った。
 そっか、戦闘以外でも、風邪とかインフルとか、ノロウィルスとかはあるんだもんね。

 襲いくる毒モンスターの群れ。
 必死に毎回倒し、毒消し草を飲みながらHPをつないでいく僕ら。

 そのときだ。
 遠くのほうに小屋が見えた。
 宿屋のようだ。
 あそこまで行けば、助かる!


 *

「ロラン。シャケ。毒消し草、まだ持ってる?」
「僕はあと四つ。父上が旅に出るときは、必ず毒消し草をたくさん持つんだよっておっしゃってたから」
「おれは商売物に手を出せば、まだ五十はあんで。けど、商売物やからなぁ。なるべく、使わんようにせんと」
「僕はあと九つだ。五十枚も貰ったのに、もう九つッ?」
「かーくんは、ぽよちゃんのぶんも飲ませてるし」

 僕はすました顔で僕らのあとをついてくる猛をながめた。
 変だ。猛も二回に一回くらいは、かるくコツンと毒バチや毒スパイダーや毒ムカデの頭を叩いてくれるけど、一回も毒にかかったところを見たことがない。

「猛はなんで、平気なの?」
「えっ? おれ? 得意技の一つが“免疫力”だからだよ」

 なるほど。たしかに兄は現実でも、やたと免疫力が高い。風邪なんかひいたことがない。僕はこれまでに二度インフル患ったけど、猛は一度もしたことがない。

「得意技って言うのはな。段階があるんだよ。個人によって、初期段階から成長しない、または三段階、五段階まで進化する場合があって、おれの免疫力は五段階まで進化してるから。ステータス異常にはならないんだ」

 いいな。その得意技。僕も欲しかった……。
 まあ、いいや。僕には“小説を書く”があるんだもんね。

「そうなんだ。得意技って進化するのか」
「得意技は使えば使うほど進化するぞ」
「へえ」

 いいことを聞いた。
 いっぱい小説書いて、ますます進化させよう。

「そう言われれば、僕の魅了も、子どものころはパーセンテージが低かった。あれって進化したからなのか」と、蘭さん。

 今まで、どんだけ、その技を使ってきたんだろう? 蘭さん。誰を相手に? モンスターだよね? 人間に使ってないよね?

 僕は心配になったけど、とにかく今は急いで、あの小屋まで辿りつかないと。

「急いで、あそこへ行こうよ」と、僕が言ったときだ。
 やな感じの音楽が流れだしたぞ。
 これは……固定のイベント戦では?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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