第37話 まさかの再会?
文字数 1,792文字
「誰や? あれ。なんや怪しいやっちゃなぁ」と、三村くんも言った。
だよね。なんかふんいきが、いかにもイベント的なやつ。
男はちょうど、ぽよちゃんの墓があったあたりで立ちつくしている。
僕は用心しながら近づいていった。
さっきお祈りしたから、もしも戦闘になって負けても、そこからやりなおせる……はずだ。
僕はこの世界の住人じゃないから、戦闘で負けたら、じっさいにどうなるのかはわからないんだけど。
目が覚めて夢が終わるだけなのかな?
考えていると、男がふりかえった。
フードの下の顔を見て、僕は仰天した。うーん、まさか、ここで、こいつの顔を見ることになるとは。
「あれっ? 兄ちゃん?」
「ああ、かーくん」
「なんで、ここにいんの?」
「いや、ちょっとな。かーくんこそ、なんだよ?」
「僕は蘭さんたちと冒険してるんだよ」
「へえ。そうなんだ」
「兄ちゃん、この前も地下道で会ったとき、無視して行ってしまったよね」
「ああ。あのときはな。悪い。悪い。そうか。かーくんは蘭たちといっしょか。まあ、それなら心配ないかな」
「何が?」
「いや、ほら、魔王が攻めてくるとかウワサになってるし」
「だよね。RPGだし。てかさ。猛はなんで、僕のことわかるの? 蘭さんも三村くんも、僕のこと覚えてないみたいなんだけど」
猛は考えこんだ。
考えるときの癖は現実世界と同じ。要するに、にぎりこぶしを口元にあてる。
「かーくん」
「うん」
「もしかして、かーくん。この世界のこと、夢だと思ってるか?」
「うん。コタツで寝てたら、いつのまにか夢見てた」
「おれといっしょだな。これ、おれの夢かと思ってたけど」
「ええー? 僕の夢だよ」
「てことは、おれとおまえの夢なのかもしれないな」
「そうか。だから、兄ちゃんだけ反応が違うんだ」
「ああ。たぶん、蘭や鮭児はおれやおまえの記憶やイメージの作る夢のなかの産物だ」
「ふうん。どうやったら現実に戻れるの?」
「それがわからないんだよな。まだ仮定ではあるんだが……」
「うん?」
「ゲームを終わりまでやりとげたら、帰れる——のかも?」
むーん。ジュマ〇ジ的なやつかァー!
なんか変なボードゲームとか拾ったっけ? いや、拾ってないし。
なんで急に兄弟でゲームの世界に入りこんじゃうんだ?
*
「じゃあさ。猛もいっしょに旅しようよ? そのほうが早くクリアできるよ」
猛はためらった。
え? なんで?
僕といっしょじゃ嫌なのか?
あっ、そうか。現実世界同様に僕が兄ちゃんの足ひっぱると思ってるな?
ふふふ。甘くみるなよ? この世界では僕のほうがチートなんだよね。
「心配しなくても、僕、この世界じゃ、ちょっとしたもんなんだ。へへへ。たぶん、旅の邪魔にはならないよ。というかさ。勇者のそばにいたほうがゲーム進行に役立つでしょ?」
猛は心底おどろいた表情になった。
「えッ? 勇者?」
「うん。勇者」
僕じゃないけど。
まあ、それはおいおいに話してやろう。
猛は何やら、ひじょうに深刻な顔で数分間も考えこんでいた。そのうち、ようやく、顔をあげる。
「わかった。ずっといっしょにはいられないんだけどな。ここから山越えて次の街くらいまでは同行しよう」
「ええ? なんでずっといっしょじゃないんだよぉ」
「兄ちゃんにはやらないといけないことがあるんだよ」
「ふうん」
ちょっと不満ではあったけど、まあいいや。しばらくでもいっしょに旅ができる。
「わ〜い。兄ちゃんといっしょだぁー!」
三村くんは、うさんくさそうな目つきをしてるので、やっぱり現実の世界での記憶がないらしい。僕らが仲良しこよしの友達だということを失念している。あるいは兄ちゃんの言うとおり、三村くんや蘭さんは夢のなかの産物で、本物ではないのかもしれない。
「シャケ。これ、僕の兄ちゃんなんだよ。すごく強い(はずだ)から、頼りになるよ」
「兄貴かいな。まあ、そんならええか……」
兄ちゃんはお腹をかかえて笑ってる。
「シャケ……シャケなんだ?」
「うん。僕らが名前のこと、イジリすぎたのかも」
「うわぁ。失礼なやっちゃなぁ。人の名前、笑うなや」
「悪い。悪い。よろしくな」
というわけで、兄ちゃんが仲間になった。