第99話 あのふたまたのところまで

文字数 1,951文字


 「ボイクド国へ行くには、どの道を通ればいいの?」と、蘭さんがたずねれば、
 「わたしがつれさられそうになっていたとき、ふたまたのところで出会いましたよね? あのふたまたの神殿とは逆の方向へ出ると、ボイクド国側の下山ルートになります」と、スズランが答える。

 目の保養だ。
 話してる姿は絶世の美人姉妹そのもの。こっちの世界の蘭さんは髪を伸ばしてるから、よけいに女の子のよう。

 それに蘭さんの装備してる精霊のよろいって、微妙に半透明(すけすけ)なんで、蘭さんはよろい下のインナーとして、すそのヒラヒラした丈の長いローブを着てる。見ようによってはドレスの上からガラスの防具を身につけてるように見えるのだ。

 眼福、眼福とふりかえるたびに内心でつぶやく僕だった。

 ハッ! いけない。いけない。
 さっき三村くんに所持金をゴッソリ持っていかれたんで、またコツコツと小銭をひろわないと。
 銀行には七十五万貯金してるから、買い物でお金に困ることは、ほぼないんだけどさ。傭兵呼びをおぼえたときに、敵に大ダメージを与えるためには、早く百万円くらい持ち歩いててもかまわないくらいの億万長者にならないといけないんだよね。

 そう思いながら、歩いていく。洞くつに入ると、あのふたまたを目指した。
 洞くつ内はダンジョンだ。
 さっそく小銭みっけ。
 ん? なんか、大きいぞ?
 銀色で穴があいてないし、大きさから言って五百円玉かな?
 変だな。所持金は今、三千円弱。
 シャケ商店で買い物しすぎちゃった。
 ふつうに拾うんなら三十円ほどのはずなんだけど。

 僕は近づいていって、足元のそれを拾いあげた。

 あっ、あれッ?
 なんでだ?
 銀色の硬貨が大きいの一つ。やや小さいの二つ。さらに五百円玉一つと三十円だ。この硬貨は何度か見たことがある。五千円玉と千円玉だ。

 「な……七千五百三十円……」
 「えっ? かーくん。どないしたんや?」

 僕はあわてて周囲を見まわした。

 「気をつけて! もしかしたら、まわりにすごく強い敵がいるのかもしれない。これって、シルキー城から逃げだしたときみたいな現象だ。あのときも敵が僕らよりずっと強かったから、いつもの十倍から数十倍の額が拾えたんだ」

 蘭さんが口元をひきしめて、あたりに気をくばる。危険察知をしてるんだ。

 「……変、だな。ほんとに強い敵いますか? 僕の危険察知では通常モンスターしか探知できないけどな。どっちかっていうと、僕らより弱いですよ。来るときに出たのと同じキツネッコとか、タヌッキとかじゃないかな」
 「うーん。そんなはずないんだけどな。だって、いきなり七千五百円も拾うなんておかしい」

 三村くんが忠告してくれた。
 「またバグなんちゃうか? ちょっとステータス見なおしならどないや?」
 「うん。そうだね」

 僕は見た。
 そして、そこに驚愕の文字を発見することになる。

 得意技
 小銭拾い(ランク2 銀行貯金をふくむ)——と。


 *

 レベル19の僕のステータス。
 HP180、MP140、力48(52)体力45(49)、知力90、素早さ50、器用さ80、幸運99998。

 マジック
 元気になれ〜ヽ(*´∀`)
 もっと元気になれ〜ヽ(*´∀`)
 毒よ消えろ〜(^ー^)ノ☆︎*.。

 職業スキル
 鑑定

 得意技
 小銭拾い(ランク2)
 小説を書く

 泣きマネ、つまみ食い、逃げ足の速さはまだ文字が暗い。
 小銭拾いのランクが上がってる。
 そうか。得意技は人によって、三段階、または五段階まで上がっていくんだ。技をタッチすると詳細が見れる。

 小銭拾い
 ランク1——所持金の百分の一の金額を拾う。
 ランク2——銀行貯金をふくむ所持金の百分の一を拾う。

 なーッ!
 なんですとぉーッ!
 銀行貯金をふくむ?
 銀行貯金をふくむ?
 見間違いじゃない……。
 何度見なおしても、そこにはちゃんと“銀行貯金をふくむ”って書いてある。

 これは、夢か?
 いや、夢だけどさ。
 どこまで僕を気持ちよくさせてくれる気だ?
 いいのか? もう現実に戻れないよ?
 僕は三十歩、歩くごとに銀行貯金の百分の一を拾える体になってしまったー!

 はぁはぁ……。
 これで、いよいよ僕に怖いものはなくなったぞ。
 商人になって正解だった。
 もう全滅を恐れながら大金を持ち歩く必要はないんだ。いつでもどこにいても、大金が拾える。
 銀行貯金が増えれば、数十歩ごとに数万円、数十万円だって夢じゃない。

 僕の歩いたあとには、大判小判がザックザク〜
 黄金色の花が咲く〜
 あはは。あはは……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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