第3話  出た出た、スライム〜

文字数 1,387文字



 扉には鍵がかかっていなかった。
 なんでモンスターが出るような場所あけっぱなしにしてるのかなぁ?

「さ、行きますよ?」
「は、はい……」

 蘭さんは意気揚々と地下道へとふみこむ。僕はそのあとを、へっぴり腰でついていく。
 暗い……けど、こういうダンジョンって、なんか都合よく松明で照らされてるよね。まだ最初のダンジョンだから、松明買うお金もないからかなぁ?

「と、ところでさ。蘭さんはお姫様なんでしょ? なんでお城から逃げだしてきたの?」
「政略結婚させられるからです」
「えッ? 結婚?」
「ええ。兄がいるんですけどね。僕と仲が悪いんです」

 うんうん。蘭さん、実のお兄さんと険悪だったな。複雑な家庭だからなぁ。

「そ、それで?」
「となりの国の国王と僕を結婚させて、領土を倍にしたいみたいなんですよね。そんな結婚、絶対、絶対したくないんで」
「そうだよね。でも、逃げだして、どうするの?」
「兄に王位を譲って引退した父がいる城まで行くんです。父に頼めば、そんな結婚はとりやめにしてくれます」
「そうなんだ。そのお城、遠いの?」
「街を出て森をぬけた湖のほとりです」

 うーん。RPGっぽい。いい感じ。

 話しながら歩いてると、急に音楽が変わった。えっ? いつから音楽かかってた? あれ? もしかして最初から、ずっと? 恐るべし。ゲーム感覚。BGM自然すぎ。

 そして、モニターに文字が浮かぶ。


 ——野生のスライムが現れた!——



 *

 薄暗い地下道に、プルプルとふるえる青いゼリー。
 うん。グミっぽいな。
 これか。これがあの有名なロープレゲー最弱のスライムかぁ。
 大きさはスイカくらい。
 つぶらな黒い瞳が可愛い。
 可愛いのに戦わないといけないのか……。
 ちょっと胸が痛むなぁ。

「かーくんさん。ぼーっとしてないで、戦いますよ?」
「は、はい」

 チャラララララララララ。
 チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャンチャン!

 にぎやかなBGMに後押しされて、僕は木刀をかまえる。ドロボーだけど、このさい、しょうがない。他に武器ないし。スマホで戦うわけにはいかない。

 ごめんね。スラちゃん。行くよ? 叩くよ?

「えい!」

 ぽこ。

「ピキィー!」

 あっ、スライムが苦痛の表情に……。
 なんか悪いことしてる気分。
 あれ? でも、次の瞬間、スラちゃん、怒った。うわっ、反撃してくるんですけど。体あたりをかましてきたー! ノーッ! 僕はスライムアタックを受けて尻もちついた。

 や、ヤバイ。それなりに痛い。
 これはかわいそうとか言ってる場合じゃない。向こうはマジだ。このままでは、()られる……。

「えい! えい!」

 ぽこ。ぽこ。

「ピキィー。ピキィー」

 反撃。タックル。タックル。
 いてて、イテ。

「えい! えい! えい!」

 ぽこ。ぽこ。ぽこ。

「ピキィー。ピキィー。ピキ……」

 あっ、目をまわした。
 かっ、勝ったー!
 僕はスライムに勝ったー!

 テロップが流れる。


 ——スライムを倒した。経験値3、三円を手に入れた——


 んん、三円かぁ。スライム、やっすいな。木刀代を稼ぐためには、スラちゃんを十七体、倒さないといけないのか。体力……もたないぞ?
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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