第367話 兄上戦!1
文字数 1,290文字
「らんらん。おまえとは血の通った兄妹だというのに、今日まで、まったくかまってやれなくて申しわけなかったな。だから今夜は、おまえとたっぷり遊んでやろう。ただし、代償はおまえの命だがな!」
ブラン王が現れた!
バジリスク隊長が現れた!
竜兵士隊長が現れた!
テロップが流れ、いきなり戦闘音楽がかかる。
おかしい。
いや、おかしくはないのか?
クラウディ村では村人たちは
野生の
と表示された。なのに、兄には
野生の
とつかない。それがつかないのは魔王軍のモンスターだけだ。兄はやはり、魔王の
悪のヤドリギにあやつられているというのは、ほんとなのだろうか?
「兄上! やめてください。兄弟で争ったって、なんの得るものもありませんよ。人間が魔王に組したって、用がなくなれば切りすてられるだけです」
正論を訴えても、兄はニヤニヤ笑っているばかりだ。
「世界平和? 万人の幸福? そんなものは、ただの理想論にすぎんのだ。人間とは憎みあうもの。他人同士の争うようすは、なんと楽しいことだ。魔王が世界を征服すれば、いたるところで、そういうさまをながめられる。素晴らしいではないか。仲のよかった家族や兄妹や友人が表面上は何事もないふりをしながら、裏では罵りあい、蔑みあい、足をひっぱりあって、自分の策略が成功し、相手が苦しむところを見てほくそ笑む。それこそが私の望む世界だよ。ひひひ」
「何を言ってるんですか! 正気に戻ってください。兄上!」
「正気? 私は正気だ。ただ私の心の奥底にあった欲望に忠実になることにしたまでよ。ほほ。知っているか? 私はずっと、おまえが憎かった。おまえさえ生まれてこなければ、父や母に愛され、幸せな少年時代をすごせたのに。おまえが生まれたとたん、私は広い城のなかに一人で捨ておかれた。誰もが私をさけ、相手にしてもらえなかった。冷めた食事をひとりぼっちですする味気なさなど、おまえは知らないだろう?」
ロランは言葉につまった。
さっきまでの兄の言葉は、悪のヤドリギに言わされているだけのような気がした。兄の本心ではなく、ヤドリギが自分の好む世界観を語っているにすぎないと。
だが、今のそれは違う。
兄の本心だ。
きっと、ヤドリギが兄の心の奥深くにある感情を読みあさり、告げているのだ。
「兄上……」
ロランが孤独だったように、兄もまた孤独だった。そして、兄の孤独はロランがもたらしたものなのだと、たったいま初めて知った。
だから、あの誕生日の宴のとき、兄は自分をさけたのか。
兄にとってロランは、いるだけで忌まわしい存在なのか。
「……ごめんなさい。兄上。何も知らずに父上や母上に甘えて。兄上から家族をうばって。兄上を一人にして。ごめんなさい……僕が生まれてきて」
両眼が熱い。
目の前がかすむ。
だらだらと血のような何かがあふれて止まらない。
嫌われていることは知っていた。
でも、ここまで嫌われているとは思っていなかった。
「……ごめん、なさい。兄上。僕は——それでも、あなたを倒さないといけません!」
激しくなる音楽に背中を押されるように、ロランは鞭をかまえた。