第51話 辿りついた神殿
文字数 1,643文字
マーダーの神殿だ。
僕らは疲れも忘れて、そこへとびこんだ。
残念ながら、さっきの怪しい連中と、蘭さんの双子の妹の姿はとっくに影も形もなかった。探すにしても何か手がかりが欲しい。RPGでは、こういうときはたいてい近くの町や建物のなかでヒントが聞ける。
入口をくぐると——
広い建物だなぁ。あちこち太い柱があって、ちょっと進むのにジャマだけどさ。
さすがに神殿のなかには、ちらほらと人影があった。でも、さっきの黒いマントの怪しいヤツらじゃない。
見るからに普通の旅人だ。
「えっと、まずは、ぽよちゃんを生き返らせよう」
「そうですね」
教会は神殿の片すみにあった。
どこにでもいるような神父さんが立っている。
「すいません。ぽよちゃんを生き返らせてください!」
「いいでしょう。では、教会に百八十円の寄付をお願いします」
「はいはい。また値上がりしたね。いいよ。払うよ」
チャラーン、チャーン。
ぽよちゃんは生き返った。
今回は簡単だな。
さて、安心したところで、神殿のなかを歩きまわろう。
もちろん、職業にもつかないと。
神父は教会の仕事しかしてくれないので、礼拝堂のなかをウロついてるシスターに声をかける。
「困りましたね。祈りの巫女姫がさらわれたそうです。これでは、とうぶん転職ができません」
えっ? そうなの?
ふもとの村で旅人が、なんか、そんなこと言ってたっけ。
「ところで、その祈りの巫女っていうのは?」
「転職の儀式をとりおこなう巫女さまです。それは、それはお美しいかたですよ」
まちがいない。
さっき、さらわれてた女の子。
蘭さんそっくりな双子の妹だ。
ああ、やっと女の子だ〜
*
やっぱり、初めて来た場所は、まず探検だよね。広い神殿は探検しがいがあるなぁ。
現実世界なら人が誘拐されたんだ。
大あわてで警察呼んで、一刻も早く助けに行かないとダメだけど、こういう世界では、なぜかどんなに時間が経過しても、必ずまにあうことになっているんだ。イベントだからね。
教会のとなりに宿屋だ。
でも宿屋で回復すると、まれにイベントが始まってしまうことがあるから、あとまわしだ。
でも、旅人から話は聞く。
「巫女さまがさらわれたそうですね! せっかく、ふもとの村からやってきたのに、これじゃ転職できないよぉ。おれは鍛冶屋になりたいんだよね」
「ここまで来るあいだに変なキャラバンに出会ったんですよ。旅の商人だって言ってたけど、どう見ても怪しかったなぁ」
「この神殿には精霊王のよろいが祀られているそうですよ」
「知ってますか? 最近、各地で人がさらわれてるそうですよ。魔物たちの群れが街や村を襲って、『勇者はどこだ』って若い男や女をつれさるらしいんです」
「やあ、ボイクド城は大きな街でね。カジノで一稼ぎしようと思ったが負けちゃったよ。あそこの景品でしか手に入らない“クィーンドラゴンの鞭”は、世界最強装備の一つなんだがね」
「知っとるかね? この世のどこかに小さなコインを集めてる酔狂な金持ちがいるらしいよ」
「年に一度、武闘大会が東にあるサムライ国で開催されるんだ。ボイクド国のワレス騎士長は、その大会で三回優勝して殿堂入りしたんだよ」
「武闘大会で優勝すると、すごい景品を貰えるらしいぞ!」
「このごろ、ミルキー城は大丈夫なのかね? なんだか、うさんくさい連中が、やけに目につくんじゃが」
「ボイクド城にあるカジノのなかでは、抽選ができるらしいね。抽選券は買い物すると、たまに貰えるらしいよ」
ふうっ。さすが人の集まる場所だ。
すごい情報のるつぼだ。
なんか近い将来、遠い将来、いろいろ関係ありそうな情報がとびかっていた。
みんな覚えとくの大変だなぁ。
あっ、そうだ。僕には“小説を書く”がある。大事そうなことは、みんな書いとこう。
メモ。メモっと。