第185話 滝の下
文字数 2,068文字
とにかく、ぶじに滝の下までついた。
僕は急いで、あたりを見まわす。
「おーい、アンドーくん? たまりん?」
たまりんはすぐに、ふわふわとよってくる。表情は読めないけど、とくにケガとかはなさそう。
心配なのはアンドーくんだ。
猛のやつ、なんでアンドーくんのことも助けてくれないんだよぉ。僕一人で精いっぱいだったのかな?
「アンドーくーん? どこ? おーい、返事できないのかなぁ?」
ふつうに考えたら、羽のない人間に、この大瀑布を急降下しろ、または泳いで渡りきれと言うのは、「死んでくださいね」と言うのと同義だ。
僕に起きた奇跡が猛だったことを考慮すれば、アンドーくんはそのまま滝つぼに落下……アーメン?
急激にアンドーくんの安否が案じられてくる。
「アンドーくーん!」
すると、ようやく、
「かーくん。ここだわ」
返事があった。
見まわすと、滝つぼから半身を乗りだして、アンドーくんが岸にしがみついている。よく無事だったなぁと感心したものの、よく見ると、アンドーくんは一人じゃない。まわりにキレイな女の人が何人もいた。
なんじゃこりゃ? ハーレムか?
「えーと……」
その人たちは?——とたずねようとすると、女の子たちは笑いながら去っていった。
水中に
だ。銀色や真珠色の魚の尻尾が、ちゃぷんと水底に沈んでいく。に、人魚……?
「今のは?」
「ああ、わが困っちょうと、近くにおう女の人が助けてごすけん。あれはこの滝周辺に住んじょうウンディーネだと思う」
「えっ? なんで助けてくれるの?」
「得意技だけん」
「ああっ、あの、モテメンってやつ?」
「うん」
「人でもモンスターでも、女なら誰でも助けてごすよ」
ええー? 何それ?
うらやましいんですけど。
まあ……いいけどね。僕には兄ちゃんがいるから。
これで全員、崖下まで到着できた。
これを奇跡と言わずして、なんと言おう。
ん? アンドーくんの得意技で、最初からなんとかならなかったんだろうか? 僕のことは助けてもらえないのか? アンドーくんだけか。そうか。
周辺をあらためて見ると、滝つぼの脇に僕らが立ってる岩場がある。そのまわりはすぐに海になっていて、陸地はどこにも続いていない。島(または大陸)の最果てのようだ。
僕はドキドキしながら旅人の帽子に手をかけた。
どうか。魔法が使えますように。
じゃないと、ここで、いつ来るかわからない船が通りかかるのを延々と待ってないといけないよ?
旅人の帽子を高くかかげる。
お日さまがちょうど帽子の影になる。帽子の外輪にこぼれる金色の光に、僕は希望を見た。
ヤッター! 使える。
移動魔法が使えるぞっ!
*
選択できる移動場所は、マーダー神殿とサンディアナの二ヶ所だけだった。
僕がこの帽子を手に入れて、移動魔法を使えるようになったのが、マーダー神殿だからなんだろう。
フェニックスに会った朝日の崖や、竜の岬にも行けるけど、今はダンジョンに入りたい気分じゃないんで。
「じゃあ、行くよ? サンディアナへ!」
僕らはかたまりになって空間を飛んだ。
シュッと景色がゆがみ、次に現れたのは——ああッ! 街だー! サンディアナだぁー!
「帰った! 帰ってきたよぉー!」
「帰ったね! 戻ってきたが!」
「キュイ〜」
人間が歩いてる。
それだけのことが、こんなに嬉しいなんて。やっぱり人間は群れで暮らす生き物なんだなぁと実感。
こう見た感じ、先日のキャラバン襲撃の爪痕は、すでにない。家屋などが破壊されるにはいたってなかったようで、火の手も早めに消しとめられたんだろう。
最初にこの街に来たときと、ほとんど何も変わっていない街並みだ。
「よかった。大きな被害はなかったみたいだね」
「うん。この街はガイな街だけん、冒険者がいっぱいおっただね。守りがしっかりしちょったみたいだが」
僕らは何はともあれ、街の中心部へ走っていった。ギルドにとびこむ。
ギルドの人たちは僕らを見て、急いでかけよってくる。
受付のお姉さん、武器屋のソウレさん、防具屋のペリペンさん。ルベッカさんやフラウさんも二階からおりてくる。
「兄ちゃん! よく無事だったな! あんた、キャラバンにさらわれたって話だったぜ?」
口調だけ聞くと男みたいなんだけど、とびついてきて、豊満な胸に僕の顔をうずめてくれたのはルベッカさんだ。
むふふ。役得ってやつですねぇ……。
「さらわれました! まあ、わざとではあったんですけど。それで、たった今、逃げだしてきました!」
「自力で逃げてきたのか? そりゃスゴイ。ねえ、ソウレ。あたしたちが現役のときだって、そこまで無謀な冒険できなかったよね?」
「ああ」
「ケガはしてない? 大変なめにあわなかった?」と、眉をひそめて心配してくれたのは、フラウさんだ。
「よければ、わたしの回復魔法で治しますよ?」
「ありがとうございます! でも、大丈夫です。それより、みなさんに——というか、ギルドに報告があるんです! 僕らの話を聞いてください」
僕らのもたらした報告が、ギルドに激震を走らせたのは言うまでもない。