第317話 真夜中になると何かが起こる
文字数 1,068文字
アンドーくんの自宅で美味しい手料理をごちそうになった。
ぽよちゃんには積んできたぽよぽよ草のディナーだ。数日ぶんはつんできてある。
アンドーくんの家族はみんないい人たちで、とても楽しい晩餐だった。
真夜中——
アンドーくんの家はとても小さかったので、僕はぽよちゃんたちと猫車のなかで就寝した。
猫車のなかには、干したぽよぽよ草が敷いてある。たまに、ぽよちゃんが勝手に食べちゃうので、だんだん減ってくけど、ラベンダーっぽい香りのする干し草は意外と寝心地がいい。
スヤスヤと寝入っていたときだ。
何やら外で物音がする。
馬車の外を人が歩いてるようだ。
「うーん……兄ちゃん?」
僕は自分の寝言で目がさめた。
兄ちゃんが夜中にこっそりオバケのふりでもしに来たのかと思ったのだ。
そうだった。
ここは異世界だ。
僕らは女神様に召喚されて、見も知らぬ世界に放置されたんだったな。
兄ちゃんは魔王軍のなかでスパイ活動中だから、こんな田舎道をほっつき歩いてるわけがないんだった。
空耳だったのかと思ったけど、違うぞ。やっぱり足音がする。
ま、まさか……オバケ?
オバケじゃないよね?
やっぱりこんな外でなんか寝るんじゃなかったかな。
ひんやりと忍びこんでくる冷たい夜気。
気配を殺したかのような、かすかな足音。
こ、怖い。
ホラーじゃないか。
僕はとなりによりそって、スースー寝息をたてるぽよちゃんをダッコして気持ちを落ちつけた。猫車の出入口を覆う布をちょっとだけめくる。すきまから外をのぞいた……。
その瞬間、あやうく悲鳴をあげるところだった。
な、なんだこれ?
いったい、この村、なんなんだ?
真夜中だけど、月が明るい。
外の景色は充分、肉眼で見てとれる。
庭木や柵でかこわれた小さな家々が、ぽつん、ぽつんと小麦畑のあいまに点在する景色のなかを、一人、また一人と村人が歩いてる。
そのようすが変だ。
みんなまっすぐ前を見て、同じ方向に進んでいく。路地で合流しても、あいさつすらしない。ただ無言で歩いていくだけだ。
まるで、何かにあやつられているような……。
あやつられて?
それって、まさか、ヤドリギなんじゃ?
見ていると、アンドーくんのお母さんやお父さん、妹ちゃんたちも家から出てきて、夢遊病者のように、どこかをめざして歩む。
その方向。
僕は気がついてしまった。
あっちに行くと村の中心だ。
蘭さんたちが休んでる野営地がある。
やっぱり、そうだ。
村の人たちは悪のヤドリギにあやつられてる。
そして、勇者である蘭さんを襲撃しようとしてるんだ!