第269話 気になるけど、とりあえず馬車

文字数 1,597文字



「ロラン? どうしたの? 元気ないよ?」
「えっ? そんなことありませんよ。疲れてるだけです。僕、もう寝ますね。ほら、ぽよちゃんたちも寝てるし」

 蘭さんは、ぽよちゃんと、くぽちゃんとバランをかかえて自分の寝室に入っていった。

 クマりん一家やケロちゃん、スライムは居間のロフトへよじのぼっていく。シルバンは重いせいか、暖炉のよこに直立不動になった。あれでも寝てるらしい。
 たまりんだけがついてきた。

「しょうがないね。出かけようか」

 馬車はすぐに改造しないと、三村くんが帰ってきたときに困る。
 それに後衛援護ができるようになれば、前衛四人と後衛四人でパーティーが組めるってわけだ。八人しか乗れないと交代要員が一人もいなくなってしまうんで、早めに対処しとかないと。

 僕とアンドーくんとスズランで、夜の街へくりだしていった。
 スズランとお出かけするのは初めてなんだけど、なんでか、僕のとなりに、たまりんがひっついて離れない。まるでスズランをけん制してるみたいだ。

「お兄さま。ようすが変でしたね。悩みでもあるのかしら?」と、スズランは蘭さんの心配をしてる。

「スズランさんはロランが大好きなんだね」と話しかけてみると、美少女の冷たい視線がつきささった。
 痛い……。

「ずっと離ればなれになっていた兄妹ですから。当然でしょ?」
「は、はい。当然です」

 ダメだ。この子とは相性が悪い気がする。美人だけど、あきらめたほうがよさそう。

 たまりんがなぐさめるように、ゆら〜りとゆれた。
 やっぱり僕のヒロインは火の玉なのか?

 ギルドは二十四時間営業なので、まだ明るかった。だけど、合成屋や装飾品屋や武器防具屋など、いくつかの施設は閉まってる。

 僕らはさっそく、裏口にある鍛冶屋の受付に行った。

「すいません。馬車の改造をしてくれる大工さんがいるって聞いたんですが」
「ああ。ザッフだね。あいつは鍛冶と大工と両方できるんだ。ちびっと魔法もかじったらしいんで、馬車の見ためはそのままで、なかの容量だけ広くできるんだ」

 受付の小さいおじいさんが教えてくれた。

「すごいですね。そんなことできるんだ。僕らの馬車、今、八人乗りなんだけど、十二人まで増やしたいんですよね」
「おお、できるとも。魔法のほろ布があればな」
「なんですか? その魔法のほろ布って?」
「サンディアナの近くに、オリヤという小さな村がある。北のウールリカから入ってくる羊毛を使って、そりゃ質のいい織物を生産しててな。そこの機織(はたお)り名人の織る布が、魔法の馬車のほろ布に最適なんだ」
「へえ。サンディアナか。明日、そっち方面に行くつもりだったから、ついでに行ってみます。じゃあ、ザッフさんに仕事の依頼したいんで、ご自宅を教えてもらっていいですか?」

 ヒョロリと白いヒゲのおじいさんは、人さし指で自分の顔をさした。
 はて? 何をしてるのかな?

「えーと?」
「わしじゃよ」
「えっ?」
「わしがザッフだ。馬車改造だな。いいだろう。受けてやろう。ただし、前金じゃぞ?」

 うーん? ほんとに、このおじいさんがザッフさんなのか? まさか、ザッフですよ詐欺じゃ?
 だって、ふつう、自分のことをあんなに褒めそやして宣伝する? それも赤の他人みたいなふりしてさ。
 いやいや、でも、モンスターおじいのときにも信用したら、ちゃんと馬車が手に入った。馬車関連のイベントは怪しい人っぽいだけなのかもしれない。

「わかりました。いくらですか?」
「十万じゃ」

 この世界の人たちって、なんだかんだ、けっこうぼるんだよな。
 ほんとに正規の値段なのかな?
 ふつうにモンスターと戦ってお金得てるだけじゃ、そうそう十万なんて貯まらないよね?
 まあいい。僕にとっては小銭だ。

「はい。十万」
「ほいほい。お任せあれ。ほろ布が手に入ったら、馬車といっしょに持ってきなさい」

 ちょっと不安ではあったけど、信ずる者は救われる……と信じよう。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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