第50話 あの子は何者?
文字数 1,447文字
僕らは無言のまま、おたがいの顔を見あわせた。
どうする? 助ける?
もちろんや。助けんで、どないするんや?
いいけど。彼ら、兄上の名前を言っていた。僕の顔を見られたら、僕のほうに追っ手がかかるかも。
じゃあ、蘭さんはここに残ってて。
僕とシャケと猛だけで行くから。
大丈夫。向こうは二人だけだ。
今の僕らなら負けることはないよ。
——と、目だけで言葉をかわす。
目だけでかわしたわりには、すごく詳しく長文だが、まあ、なんとか言いたいことは目を見てわかった。
よし、じゃあ、行こう——と、僕は三村くんとうなずきあって、なるべく足音を立てないように彼らのそばまで近づいていく。
だけど、すごく耳のいい連中だ。
僕らがそろそろ奇襲をかけてやろうかと思ったあたりで、向こうも僕らに気づいた。
「ヤバイ! 見られた。逃げるぞ」
そう言って、女の子を抱えあげると、もと来た道のほうへと走り去っていく。
僕らも追ったけど、とにかく足が速い。もしかしたら一般ピープルではなく、忍者とか、そういう種類の職業についてる連中かもしれない。
あっというまに差がひらいて、姿が見えなくなってしまった。
それにしても……。
「なあ、かーくん。今の、見たか?」
「うん。見た……」
僕はしばし、ぼうぜんとして、連中が去っていった方角をながめた。
だって、ヤツらに抱えられた女の子の顔……。
そこに、うしろから蘭さんが追いかけてやってくる。
「どうだったんですか? 逃げられてしまったんですね?」
僕と三村くんは同時にふりかえって、つくづく美しい蘭さんのおもてを凝視する。
「……うーん、やっぱり蘭さんはここにいる」
「一瞬、本人が先まわりしたんかと思うたわ」
「だよね。または分身の術」
「もう、二人とも何を言ってるんですか?」
僕は三村くんと顔を見かわした。
うん。幻を見たわけじゃないらしい。
「だからさ。あの女の子、ロランにそっくりだったよ」
*
「僕に……そっくり? もしかして、それは生き別れになっている双子の妹かもしれません」
あれ? 現実にはない双子設定、出てきたぞ。
「僕らの国では双子をいっしょに育てると悪いことが起こるって言われているんですよね。だから、まだ赤ん坊のころに、妹はどこかの神殿に預けられたって聞きました。もしかして、その神殿というのが……」
僕は興奮して叫ぶ。
「マーダーの神殿だ!」
蘭さんもうなずく。
「ですよね。マーダーの神殿にいるはずの妹を、兄上がさらおうとしたんでしょう」
「なんのために?」
「僕のかわりにボイクド国のコーマ王に嫁がせるつもりなのかも?」
「身代わりか」
まあ、それなら、まだ殺されたりヒドイめにあわされることはないだろう。
でも、とつぜん誘拐されて結婚しろと言われるのは嫌だよね。
なんとか助けてあげたいなぁ。
「やつらのあとを追いましょう」と、蘭さんが言った。
「せやな。どうせ、おれらも行く方角やで。あっちがわが明るい。出口があるんや」
三村くんの言うとおりだ。
洞くつの前方が明るい。
僕らは何度かモンスターと遭遇しながらも、急いで外をめざした。
やがて、明るい日の光がさす台地に出た。
そこは山間の草原だった。きれいな花畑のなかに荘厳な神殿が建っていた。パルテノン神殿みたいなね。
あれか。
マーダーの神殿!