第324話 ヤドリギはこの人

文字数 1,262文字



「ええーッ? ま、まさか、この人が?」
「ああ。まちがいない。コイツだな」
「そんな! ぜんぜん、そんなふうに見えなかったのに」
「ヤドリギのカケラは体内に入っただけでは、近親にも判別が難しいのだろうな。つねにあやつられているわけではなく、ときおり悪のヤドリギの意識に、思考を乗っ取られてるのかもしれない」

 信じがたい。でも、これが真実だ。
 その人のおもてに、たったいま浮かぶ(いびつ)な表情を見れば、もはや疑いはない。
 あんなに善良な村人だったのに。
 今は根性の悪さが前面に出ている。

 アンドーくんが叫んだ。
「お袋! しっかりしてごせや!」

 そう。それは、アンドーくんのお母さんだった。
 猫車から降りて、いつのまにか、そこに立っている。

「ムダだ」と、ワレスさんがアンドーくんの肩を押さえた。
「こうなれば、戦闘不能にするよりほかない。母を痛めつけることはできないだろう。おまえはさがっていろ」
「でも……」

 そりゃ取り憑かれてはいてもお母さんだから、アンドーくんは気が気じゃないだろう。
 僕はアンドーくんの手をひいて、さがらせた。

「ここは僕らに任せて」
「う、うん……」
「大丈夫。手かげんはするよ」
「うん。頼んよ」

 戦闘音楽が流れてきて、いよいよ、アンドーくんのお母さんと一戦——
 というときになって、まわりにやたらと村人が集まってきた。
 正体がバレたので、ヤドリギがあわてて、あやつり人形たちを呼び集めたのだ。

 ワレスさんは舌打ちをついた。
「ザコはおれがやる。おまえたちはヤドリギをやってくれ」
「わかりました」

 ワレスさんは戦線離脱。
 残念。
 でも、迫りくる無数の人たちを一人でいなせるのは、ワレスさんだけだ。

 蘭さんが言った。
「かーくん。せっかくだから、後衛戦してみましょう」
「そうだね」
「じゃあ、前衛は僕、かーくん、バラン、シャケ。後衛はスズラン、たまりんで」

 スズランとたまりんは補助魔法や補助スキルが豊富だからね。
 ところが、アンドーくんがかけよってくる。

「わも後衛に入るわ。世界樹の枝先で回復くらいはできぃけん」

 僕は蘭さんと顔を見あわせた。
 まあ、黙ってみてられないというアンドーくんの気持ちはわかる。

「じゃあ、アンドーも入ってください」
「うん……」

 ああ、アンドーくん。
 ほんとはツライだろうになぁ。
 見てられない。

 誰かに取り憑いて意識をのっとるってだけで、悪のヤドリギは充分にクズだ。けど、それをこうやって家族や友達と争わせようとするところが、ほんとにクズのなかのクズだよね。

 ポルッカさんのときも、そうだった。
 ポルッカさんが大切にしてるものを、ポルッカさん自身の手で、わざと破壊させようとしていた。

 今度は息子のアンドーくんをお母さんと戦わせようとしている。
 もしかしたら、あえてのそのための人選なのか?

 くそォー。ヤドリギめ。
 許さないぞ。


 アンドーくんのお母さんが現れた!
 アンドーくんのステータスが激減した!


 えっ? 激減するんだ。
 てか、思ったとおり、アンドーくんのお母さんは野生じゃない。
 魔王軍あつかいか。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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