第175話  魔法毒

文字数 1,220文字



 ノームの村——と最初に書いたけど、これは街と言ったほうがよかったかな。
 小さくなって歩いてみると、街路はふみかためられて整備され、家々はたいてい二階建てで、なかなか豪華。
 なんちゃって中世ヨーロッパの街並みだ。ミルキー城の城下町も似たような風景だったけど、ここはそこより、さらに金ピカ。やけに宝石や金メッキが目立つ街だなぁ。

「おいおい。おまえさんたちだば、こっちさ来るだば。疲れてるんだば? それと、その女の人だば、悪い魔法だばかかっとるな。そのままで旅だば難しいだば」

 うっ。ノームの言葉はこのサイズで聞いてもメチャクチャだった。
 クピクピ言ってたときは、クピピコと同じような気がしてたんだけどなぁ。もしかしたら、ノームの言葉はコビット語のなかでは訛ってるのかな? だばだば。

「ここが、わしのうちだば。ささ、遠慮なく入るがいいだば。茶くらいは出すだば」

 茶色の外壁に白い屋根。窓の格子も白い。可愛いお菓子の家のようだ。
 いいなぁ。薄汚れたダークな廃墟からの真っ暗な下水道だったからさ。こういうメルヘンの世界を待ってたんだよぉ。

 招き入れられた家のなかには、ノームのおじさんの家族がたくさんいた。太ったお母さんと、コビット族くらいの大きさの子どもたちだ。
 そう。つまり、今の僕らにとって、ノームのおじさんは見あげる大きさ。

「あんたさぼ。えらいこと早かったさぼ。あらあら、お客さんさぼ?」
「おお、おまえ。聞いてくれだば。この人たちだば、地下水道で迷っていなさっただば。お茶さ出してあげてくれだば。そのあいだに、わしが女の人の容態、見てみるだば」

 さぼさぼ。だばだば。

 玄関を入ると居間。
 ソファーがあったので、そこにナッツのお母さんを寝かせた。
 ノームのおじさんが脈をはかったり、まぶたをこじあけたり、ベロをひっぱったりなどして診察した。

「さっき、ナッツのお母さんは悪い魔法にかかってるって言ってましたよね? 魔法は解けたはずなんですが、ふつうに解いただけじゃダメなんですか?」

 僕がたずねると、おじさんは太短い腕を組んだ。

「よくない魔法だば、長くかかりすぎたせいで、魔法毒にやられとるだば」
「魔法毒?」
「悪い魔法にあんまり長いことかかりすぎとると、その魔法の毒がしみついてしまうだば」
「どうやったらその毒はとりのぞけるんですか?」
「言うはやすし、行うはかたしだば」
「と言うと?」
「その魔法をかけた術師を倒せば、魔法毒はぬけるだば」
「うーん……」

 そういうことか。
 要するに、ナッツのお母さんを目覚めさせるためには、グレート研究所長を倒さないといけないのだ。

「母ちゃん……」
「ナッツ。約束するよ。今の僕らには、まだグレート研究所長に勝てる力はない。だけど、いつか必ず倒してみせるから」
「うん……おれも! おれも強くなる。ものすごい戦士になって、あのくそブタやろうをおれの手で倒すよ!」

 僕たちはグレート研究所長打倒を、あらためて心に誓った。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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