第232話 クピピコたちとお別れ?

文字数 1,608文字



「こんなにたくさん買ってくださるお客さまが来てくださったのは、ほんとに久しぶりだこと。貿易商の血が湧きましたわ。これからは少しずつ入荷商品を増やしていきますわね。またいらしてくださいませ」

 今度こそ、僕らはポルッカさんの屋敷を去ることになった。
 ところがだ。
 さあ、玄関扉をあけて出ていこうというときになって、三村くんが言いだす。

「おれ、ちょっとのあいだ、ここに残ってもええかな?」
「えっ? なんで?」
「ポルッカさんと商談があんねん」
「ああ。それならしかたないね」
「おまえらが旅に出るときにはいっしょに行ったるさかい、迎えに来てや」
「ふうん。わかった」

 三村くんは一時離脱だ。
 まあ、しょうがないよね。
 三村くんは本職が商人だし。

「じゃあ、僕らだけで、さきにボイクド城へ行こうか。まだ城下町のシルバースターも歩いてないし」

 僕は言ったんだけど、蘭さんも考えこむ。

「ちょっと待ってください。その前に一度、マーダー神殿へ行きませんか?」
「えっ? なんで?」

 スズランがいるから転職はいつでもできるはずと思ったけど、蘭さんが行きたがるのは別の理由からだった。

「クッピピとピコピラーは戦士だからいいんだけど、ピコッピは早く村に帰りたいと言ってるので、コビット村に送りとどけてあげたいんですよ」

 ああ。そうだった。僕ら、その子を助けるためにキャラバンを追っていったんだもんね。

「コビット族の村長の娘だね」
「そうです。コビット村にも魔法で飛べるなら、ちょくせつ送っていくんですが、前にアイテムを使おうとしたとき、行けなかったので」

 僕は旅人の帽子をかざしてみたけど、蘭さんの言うとおり、コビット村には魔法ではいけない。マーダー神殿が一番近い移動魔法の拠点だ。

「いいよ。じゃあ、マーダー神殿へ行って、虹の谷のコビット村まで移動しようか。で、帰りはちょくせつ、シルバースターへ魔法で飛ぶ」
「そうしましょう」

 ダンジョンじゃなくなったから、ポルッカランドのなかは、どこからでも移動魔法が使えた。ピュンと飛んで、馬車ごとマーダー神殿まで移動する。
 神殿の前まで来ると、スズランが嬉しそうに言った。

「お兄さま。わたし、少しの時間、お師匠さまと話していてもいいですか?」
「ああ。いいよ。帰りにまた寄るから」

 ああ、スズランさん……仲よくなる機会がない!

「僕、ついでに帰りにマーダー神殿で転職しとこう。もう商人はマスターしたしさ」
「わも魔法使いはマスターしたよ。次は何がいいかなぁ?」
「アンドーくんは魔法使いを活かせるような職がよくない?」
「そげだねぇ」

 虹の谷は一回、攻略したところだ。経路もわかってるし、出てくるモンスターが今の僕らにとっては、てんで弱い。つまみ食いなんかしながら、気楽にコビット村についた。

「ピコッピ! クピー!」
「ピコッピ」
「ピコッピ!」
「ピーコクピコピ」
「コピコピ。クピコー」

 なにやらコビット語で感動の再会を果たす小さい人たち。

 僕は彼らにまざるクピピコをながめた。
 クピピコには、いろいろ助けてもらったからなぁ。
 ちょっとさみしいけど、村長の娘を見つけてつれ帰るっていう彼らの目的は、これで果たした。村に残るつもりかもしれない。

「コピピー。コピクピピ。ピコピコ」
「ピコピコ」

 しきりに頭をさげる村長と村長の娘。
 よかった。よかった。
 これでコビット村はもう安心かな。

「じゃあね。クピピコ。元気でね。いっしょに旅ができて楽しかったよ」

 僕は言ったんだけど——

「コピ。クピピコ、ピクコピー」

 クピピコは走ってきて、ぽよちゃんの頭にとびのった。コビット王の剣をかかげてクピクピ話している。

「いっしょに行くって言ってるみたいですね」と、蘭さん。

 ピコピラーとクッピピもあわてて、やってきた。
 三人は僕らの旅についてくるようだ。
 コビット語はわからないけど、彼らも大事な旅の仲間だ。
 いっしょに行けるのは、やっぱり嬉しい。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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