第106話 初めての冒険者ギルド

文字数 1,591文字


 冒険者ギルド。
 なんだかワクワクするその響き。
 ワイルドな戦士や鋭い目つきの武闘家、ならず者っぽい盗賊なんかがたむろして、つねに活気にあふれてる……という僕の期待は、しょっぱなから裏切られた。

 夜が遅かったのが悪かったんだろうな。
 一階の真正面にカウンターがあって、そこに夜勤のお姉さんがアクビしながら立っているだけだ。
 広いロビーには冒険者の姿はない。
 なんだ。いろいろウワサ話、聞きたかったのに。とくに、キャラバンについてね。

「あの……」

 僕らが近づいていくと、受付のお姉さんはあわててアクビをかみころした。

「い、いらっしゃいませ。ご用件はなんですか?」
「えーと。どんなことできるんですか? 初めてで、よくわからないんですけど」
「初心者ですね。では、まずギルドの冒険者名簿に登録してください。登録されたかたはギルドのさまざまな設備を利用できます。ただし、内容によっては利用に料金が発生します。こちらが、ギルドでできることです」

 ここでもお品書きみたいなものがあって、ツラツラとギルドでできることが書かれていた。

 利用できる設備
 武器屋
 防具屋
 銀行
 預かり所
 乗り物のチケット販売所(蒸気船。鉄道)
 乗り物のレンタル所(馬。自転車。要相談)
 仕事斡旋所(長期。短期)
 冒険者の交流所(パーティーメンバー募集)
 情報屋
 掲示板

 ギルド登録者特典
 救助要請
 ギルド貢献度ポイント
 冒険者ランク・称号の授与
 王宮での特別訓練
 武闘会参加権

 おおーっ! なんか、字面だけでスゴイ。
 便利そうな設備や特典がいろいろあるぞ。
 乗り物って、この世界、すでに蒸気船があるのか。鉄道も走ってる。意外と思ったより文明進んでるなぁ。もしかしたら国によって文化水準に大きく開きがあるのかも。

 利用できる設備ってのは、だいたいわかる。仕事斡旋所は、たぶんクエストの受付みたいなもんだ。長期の仕事は住み込みの用心棒とかかもね。
 よくわからないのは、ギルド登録者の特典のこと。これは、ちょっと聞いてみなければ。

「すいません。救助要請ってのは、冒険で危険になったとき、ギルドに救助を頼めるってことですか?」
「そうですよ。出発前に目的地とルートを提出し、保険料を支払うことで、万一のときにギルドが救助をさしむけます」
「どうやって救助を要請したらいいんですか?」
「ギルドから発煙筒を渡します。危なくなったら、それで狼煙(のろし)をあげてください」
「なるほど」

 実力以上のダンジョンに挑むときとか、いいかも。もちろん、何も起こらなかったときは保険料は戻ってこないだろうけど、少額で全滅回避できるのはいい。

 ほかにも、まだまだあるぞ。

「ギルド貢献度ポイントっていうのは?」
「ギルドへの寄付をしたときや、さきほどの救助要請を出した冒険者を救助したときに付与されるポイントです。ポイントがたまれば景品などと交換できます。また、冒険者ランクや称号の授与にも影響してきます」

 ふうん。景品はいずれ、ちゃんと見るとして。

「冒険者ランクが上がったり、称号がつくと、どうなるの?」
「ボイクド国内での加盟店での買い物が割安になったり、ランクの高い仕事を請け負うことができるようになります。またギルドが所有する特別なダンジョンのカギを貸しだすこともできます」

 いいなぁ。本編ストーリーでは行けないオマケダンジョンみたいなものかなぁ。レアなアイテムとか手に入るかもね。

「じゃあ、ギルドに登録させてください!」
「はい。ではこちらの名簿にご記入ください」

 羊皮紙かな。
 黄色い紙の名簿をひろげて、お姉さんが羽ペンとインクを渡してくる。
 はいはい。名前ね。かーくん、っと。
 これで僕もギルド会員だ!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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