第377話 イケノくん戦!4
文字数 1,259文字
増長していくイケノくんを前に、僕らは必死で戦った。
あの小柄だったイケノくんが、どんどんデカくなって、今じゃ室内をほぼ肉でいっぱいにしてしまってる。
僕らの居場所もなくなりそうだ。
このままじゃ、肉と壁のあいだで押しつぶされて圧死だ。
そんなの、ものすごく不名誉な負けかただ。
ターンに関係なくヤツが増殖していくので、とにかく時間との争い。
バババッと攻撃して、バカバカと反撃を受け、また攻撃——
でも、ダメだ。
切っても切っても追いつかないよ。
ああ……かえすがえすも、さっきの二千億があれば、しょっぱなにあれで総額なげ、できたのに。
「かーくん。傭兵呼びは?」と、アンドーくん。
「さっきの総額なげで所持金ゼロだよ」
「そうか……」
背面からはワレスさんたちが、ものすごい勢いでヤドリギのHPけずりとってるけど、それでも、ぜんぜん、追いつかない。
こっちもMPがつきそうになると、蘭さんが『みんな、ありがとう〜』をしてくれて、なんとか必死にくらいつくんだけど……。
部屋の壁や天井がミシミシ言ってる。
このままじゃ、壁ぶちぬくぞ。
お城中が、この肉塊に占領されてしまう。へたすると、国中……いや、世界中が?
もうあきらめそうになったとき、ワレスさんたちが戦闘をやめて、こっちにまわってきた。
「おれの能力で戦闘中、一度だけ、時間を戦闘開始直後に戻すことができる。だが、今のままでは何度やっても結果は変わらない。薫。おまえ、総額なげができるようになったな?」
ギャー! 僕の英雄が僕の本名を!
しかも下の名前で呼んでくれたっ!
いや、今はそこじゃない。
「はい。でも、さっき不慮の事故で所持金がなくなって。預かりボックスに入れといたお金も、いつのまにかなくなってしまって」
「パーティーの他のメンバーが残っていれば、戦闘離脱したことにはならない。おまえ今から一人でダンジョンに行って、金をひろってこい。おまえが帰ってきたら、戦闘開始直後に戻す。そのときなら、おまえの総額なげで、ヤツの増殖スピードも上まわるだろう」
「わかりました!」
ここから一番近いダンジョンって、さっきの壁のあいだの秘密のぬけ道か。
竜兵士やバジリスク隊長が出るな。
「わしが援護でついていくぞ」
「ダディロンさん。ありがとうございます!」
肉を切りつけて通り道を作りながら、僕はダディロンさんと二人で部屋をとびだした。
どうか、みんな、僕が帰ってくるまで、なんとか、ここをもたせといて!
ぬけ道の出入口は大広間のある三階のろうかのつきあたりにあった。大きな額絵で隠してあるけど、そこに扉がある。
急いでダンジョンにかけこんで、急いで十五メートル走り、急いで十億円ひろって、かけもどってくる。ついでに出入口のとこで、もう一回ひろう。十五メートル往復の二回ぶんで二十億だ。
まだHP2000のときのイケノくんなら、傭兵呼びでも充分、ワンパンだな。
僕らは急いで大広間に戻った。
けど、ほんの十分が手遅れだったのか?
部屋がもう肉で埋まって、扉をあけても入れない!