第200話 ワレスさん戦!2
文字数 2,037文字
作戦立てるばっかりで、なかなか戦わないバトル。
でも、これで勝機が見えたぞ。
昨日、銀行に所持金の大半は預けたし、ギルドに寄付もした。だから、今の手持ちの金はほんの二十万ほどだ。それでも百分の一なら、二千円。つまり、与えるダメージは二千……。
「よし。じゃあ、行くよ!」
僕のかけ声で、動くみんな。
最初にぽよちゃんの攻撃!
ぽよちゃん、素早さだけなら、けっこうラストダンジョンの敵とでも互角だと思う。けど、ワレスさんは軽いステップでかわした。
うーん。やっぱり、ぽよちゃんには“はねる”か、巻きで行こうを使ってもらうべきだったか。
続いて、アンドーくんの「燃えつきろ〜」なんだけど。
呪文とともに大きな火の玉が空中に浮かび、ワレスさんの頭上に迫る。
が、ワレスさんがキッとにらむと、火の玉は弾けた。
「あッ! ズルイですよ。魔法シールド使わないって言ったのに」
「悪いな。今のはシールドじゃないんだ。おれの得意技だよ。自動発動するんだ」
むーん。ミラーアイズの魔法反射か。
回避力が高い上に魔法も反射。
これじゃ、かすり傷ひとつ負わせられない。
たまりんは、ヒュードロドロとゆれた。表情わかんないけど、「呪ってやる〜」を使ったんだと思う。
ワレスさんは微笑した。
「残念だったな。おれには状態異常は効かない」
そうか。猛もそういうスキルがあるって言ってたな。ワレスさんは病気にならない体質って設定だから、そのせいだ。古の血ってやつが、それだったかな。ちゃんと詳細説明まで見とくんだった。
「残りはおまえ一人だな。ちょっとはおれを楽しませてくれよ?」
余裕の笑みを見せるワレスさん。
カッコイイ。
負けても幸せなんだけど、試してみるかな。
「じゃあ、行きます!」
僕は叫んだ。
「傭兵呼び〜」
二千円がミャーコの口から吐きだされてくる。金貨や銀貨があたりに舞った。
室内にいた傭兵たちがひきつった表情で硬直した。
そして、次の瞬間、みんなが狂ったように走りだした。ワレスさんに一直線にむかっていく。
そう。僕は商人の最大奥義『傭兵呼び』を会得していたのだ。
*
やぁ、ほんと、ごめんなさい。
大好きなヒーローにこんな姑息な技、使っちゃって。
金の力に飽かせて、イヤなやつ街道まっしぐらだなぁ。
だけど、さすがはワレスさんだった。
訓練所にいた全員——つまり五十人くらいがいっぺんに殴りかかっていったのに、ワレスさんはヒラリ、ヒラリとかわしていく。風のようにしなやかにっていうのは、まさにこのことだ。
とは言え、傭兵たちのすべての攻撃はよけきれない。何回かに一回はパンチをくらってる。表情が真剣だ。
傭兵たちが憑きものが落ちたように静まると、ワレスさんは荒く息をついて、僕をにらんだ。
するどい目つきも素敵です!
「……おもしろい技を使うな。商人の奥義か」
「そうです! やっと覚えました」
「だからって、たしかあれは所持金の百分の一のダメージを相手に与えるんだろ? さっきの攻撃、まともに浴びていれば、二千ダメージか? そんな大金、なんでふだんから持ち歩いてるんだ?」
「僕にとっては小銭なんで」
ワレスさんは僕を見つめてから嘆息した。
「小銭拾いって得意技か?」
「そうなんですよぉ。もう小銭じゃなくて大金なんですけどね」
傭兵呼びは防御力無視のダメージだったはずなんだけどな。回避力が高すぎると、威力が激減するってことか?
ワレスさんがまだ立ってるってことは、ダメージは彼の最大HP以下だったってことだ。
というか、訓練所のなかの傭兵たちが召喚されたから、隊長に遠慮して素手でかかっていったせいかな。ちゃんと武器で攻撃してください。
「わかった。攻撃に関しては合格だ。では、防御はどうかな? じょじょに強い魔法にしてやろう。どこまで耐えられるのか見ておきたい」
「いや、ちょっと、痛いのは……」
うう。そうだ。この人、ドSだった。
ワレスさんのターンだ。
まず最初に魔法でHPを全回復した。
ん? なんか変だぞ?
魔法の呪文が僕らと違う。
スズランのステータスで見たとき、回復の単体最強魔法は「元気いっぱい〜」だったはずだ。
しかも、顔文字はコレヽ(*´∀`)
なのに今、ワレスさんは無表情なまま、ユイラ語で詠唱した。
あれ、あれと思っていると、続いて攻撃魔法が来た。風属性の一番弱いやつだ。雷系の魔法も風属性。
さっき、聞き耳で見たときには、『プチサンダ〜°˖✧︎◝︎(⁰▿︎⁰)◜︎✧︎˖°』と記されていた。なのに、それもワレスさんにかかれば無表情、かつユイラ語だ。
そうか。これが自己流詠唱ってやつか。僕らは呪文のとおりの言いかたや表情じゃないと効果を発揮できないけど、自己流が許されてる人は違うやりかたでもいいんだ。恥かかなくてすむ! どの職業マスターしたら貰えるんだ? そのスキル。
プチサンダー四連続!
僕らはそれぞれ、ちっちゃい稲妻を浴びて、HPの六、七割を失った。
しびれるぅー。