第151話 古い絵本

文字数 1,270文字



 ブッキーの落とすカードは貴重な攻撃魔法アイテムだ。
 何度か戦ってわかったけど、やつらは自分の属性の魔法なら最弱から最強まですべて使いこなす。どの魔法を唱えるかは気分しだいのようだ。
 なので、ドロップアイテムのカードも、書かれている呪文がランダムに変わる。最強魔法の呪文なら大ラッキーだ。

 かなり美味しいアイテムなので、僕らはそれを集めるためにも、たんねんに本棚を調べた。
 そこでいくつか見つけた興味深い文献。
 戦闘指南書とか、自己流呪文詠唱についてとか、いろいろあったけど、そのなかでとくに目をひいたのは、『四人の王と三人の巫女の物語』という絵本だ。

 古びて虫食いだらけになった蔵書のなかで、その本だけは傷一つなく、とてもよい状態だった。白い革表紙をめくると、僕の知らない文字と美しい挿絵が目に入ってきた。
 アルファベットのようでもないし、読めないはずなのに、これが読めちゃうんだよなぁ。
 おおまかなところ、こんな内容だ。


 その昔、世界は四つにわかれていました。精霊の住む精霊界。魔神の住む魔神界。(いにしえ)の神の住む古界。そして人の住む人界。

 四つの世界には、それぞれ、王がいました。精霊王、魔神王、古王、人の王です。

 原初、四つの世界は境界なく、自由に行き来ができました。争いなく、すべての国が平穏だったのです。

 ところが、あるとき、それはそれは美しい女神が誕生しました。あまりの美しさに目のくらんだ四柱の王は女神の心を射止めるために競いあい、いつしかその仲は険悪になっていきました。

 戦になり、それを悲しんだ女神は自らの存在を三つに切りわけ、魂は深い眠りにつきました。死のように深い眠りです。その眠りを覚ますことができるのは、女神が切りわけた分身である三人の巫女だけです。

 四柱の王は嘆き、悲しみ、それぞれの国に門を作り、二度とたがいの国を行き来できないように扉を閉ざしました。

 この世界のどこかには、その扉がまだ残っているということです。


 うーん。気になるよね。
 これ、このゲームの世界の最重要情報なんじゃないだろうか?
 扉ってキーワードも何度か聞いた気がするし、蘭さんが着てる勇者最終装備の“精霊王のよろい”って、精霊王の持ちものなんじゃ? ふつうならゲーム終盤でやっと手に入るはずの代物だ。

 精霊王、魔神王、古王、人の王か。これは覚えとかないとな。

 それにだよ?
 三人の巫女っていうのが、また符合する。
 どこだったかなぁ?
 旅人か誰かが、この世には三人の巫女がいるって言ってたよね。
 祈りの巫女、予言の巫女、夢の巫女……だったかな?
 そのうち、祈りの巫女はスズランだ。
 てことは、ほんとにこの世界には三人の巫女が存在する。
 この絵本に書かれたことが全部、真実ではないのかもしれないけど、少なくともなんらかの史実は隠されている。

 魔神王ってのは、魔王のことなのかな?
 魔王軍の侵攻と、この絵本の物語は、関連があるのかもしれない……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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