第56話 小銭無双で神殿のお宝ゲット〜

文字数 1,577文字



 さらに画面を見る。
 すごいぞ。これ。
 さすが勇者の最終装備だ。
 防御力が220ある。
 あのゲームで言うメタルな王様のよろいと大差ない。それで魔法ダメージが三分の一って、美味しすぎないか?

 なんとか今すぐ、これが手に入れられないかなぁ?
 こういうのって、たいてい、勇者の証明とか言われて、クエストすることになるんだよな。今の僕らじゃムリかぁ。

 と思ってたら、あっけなく神官は言った。
「神殿の修繕費が必要なので、十万円でならお譲りしますよ?」
「えッ?」

 いいのか? 最終装備がこんな中盤手前で手に入って?
 あっ、そうか。十万だもんな。
 ふつう、この段階で十万もたまらない。千八百円のブーメラン買うために、何度もバトルしてお金を集めてるころだ。
 十万ためることじたいがクエストなんだな。

 ああ、無双……。

「これ、ください」

 今度は神官がおどろいた。

「えッ?」
「ください。ここに十万ありますから」
「えっ……」
「はい。十万。じゃ、貰っていきますよ?」
「は、はい……」

 僕はよろいをかついでみた。
 か、軽い……なんだ、この軽さ。紙か? しかるに鋼鉄の強度!
 これが精霊界の技術なんだな。
 たぶん、魔法で作られてるんだ。
 そのうち終盤で精霊界とか行くことになったりして。

 人前でそれを着させると、蘭さんが“選ばれし者”だとバレてしまう。
 僕は宿屋に行って、一晩の部屋を借りた。
 そこで初めて、よろいを蘭さんに渡す。

「はい。蘭さん」
「えっ? 僕に?」
「うん。これ、勇者しか着れないみたいだ」
「ああ、うん。そうかなとは思ったんだ。これの前に立ったとき、呼ばれてるような気がした」
「ふうん」
「でも、お金は? 僕、今、お小遣いしか持ってきてない」
「出世払いでいいよ」
「ありがとう! かーくん」

 蘭さんが抱きついてきた。
 甘い花のような香りが鼻腔をくすぐる。
 うーん……早く巫女姫に会いたい。


 *

 精霊王のよろいを身につけた蘭さんは、輝くばかりだ。
 ほんとに、キラキラとこぼれる光のベールみたいなものをまとっている。
 綺麗だなぁ。
 男でも見惚れるよ。

「じゃあ、かーくん。かわりに僕がつけていた銀の胸あてをあげます。これなら、たぶん、かーくんにも着れる」
「わ〜い。銀の胸あてだぁ。けっこう強いやつだよね」

 シルバーシリーズの装備品は、中盤の中盤くらいに出てくる。まだ店で買うことはできない。防御力は45。

「さっそく着替えようかなぁ?」

 ん? 胸あてって、仲間モンスターのほとんどが装備できるんだったよね?
 さっき、僕は銀行で貰った旅人の帽子をかぶってる。防御力が35から引くことの皮の帽子ぶんの3で、32も上がった。
 これは装備できる防具が限られてるモンスターのぽよちゃんにつけさせよう。

「ぽーよちゃん」
「キュイ?」
「あ、やっぱり装備できるね。おいで。おいで」
「キュイ。キュイ」
「ほら、ケープ外して。銀の胸あてだよぉ」
「ピュ〜イ」

 不思議なもんだ。
 さっきまで蘭さんが着てたのに、ぽよちゃんにつけさせると、胸あてはちぢんで、ぽよちゃんにちょうどいいサイズになった。あとは木の帽子さえ違うものにできれば、だいぶ可愛いぞ。

「じゃあ、僕とシャケは防具屋行こうか」
「せやなぁ」

 僕と三村くんは防具屋で黒金のよろいを買った。僕は盾も黒金の盾に変えた。
 やっと一人前になった気分。
 これでかなり守りは強くなったぞ。

「さあ、妹を助けに行きましょう!」

 いや、その前にちょっと休ませて。
 山登りしてきたんだもん。
 さすがに、すぐはムリ。

 そして、夜が明けた。
 よし。今日こそは巫女姫を助けに行くぞ!
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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