第212話 ブンブンブン。ハチが飛ぶ……
文字数 1,912文字
バランが守るを使ってくれたから、これで守備は万全だね。
ぽよちゃんは黒ぽよがいるせいか、嬉しそうにバジリスクに突進していった。サッと背中をなでると、コロリとあっけなく、バジリスクはひっくりかえる。
そのまま、キノッコにも頭突きをくらわす。ぽよちゃんの攻撃力が高いのは、妖精のネイルのせいなのに、なんでか頭突きでも、コロリとひっくりかえる。
こういうところがゲーム世界の不思議。
残るはブンブンだけだ。
次は三村くんの攻撃。
まだ三村くんのほうが僕より速いんだな。風切るバンダナの効果がいまだに効いてる。素早さプラス50って、やっぱり大きいなぁ。
だけど、三村くんの攻撃は、スカリとよけられた。
「あれっ? かわされよったな。コイツ、回避率高いんか」
さっき聞き耳で見たとき、素早さの数値は50くらいだったと思うけど、たまに素早さと回避率の数字が比例してないときがある。ブンブンは小さいから、的に当たりにくいんだろう。
「しょうがないね。直接攻撃より魔法のほうがいいのかも」
ということは、僕のレプリカ剣にセットしてる『燃えつきろ〜』の効果で、やれてしまう。
なんてチョロい戦いだろうか。
僕は調子に乗ってしまった。
「つまみ食いしたいから、1ターン待ってもらっていいかな?」
「つまみ食い? なんや、それ?」
「あっ、そうか。シャケはまだ知らないんだっけ。僕の得意技なんだけど、余裕のある戦いでしか使えないからさ」
「ふうん? ええで」
では、遠慮なく——
チューチュー。チューチューチュー。
美味いなぁ。ハチミツの味がする。
ブンブン、おいしい。
だが、しかし、だ。
次の瞬間、ブンブンは怒り狂って反撃してきた。“刺す”攻撃だ。
ブンブンはチューチューされたことに腹を立てたのか、僕を狙ってくる。
バランの“守る”発動!
よしよし。これで戦闘終わるかな。
と思ったそのとき……。
「あれ? バラン?」
バランはブンブンの針に刺されて動かなくなった。戦闘不能になってる。
ええーっ?
「トドメですね」と、クルウがつぶやく。
「えっ?」
「ブンブンの“刺す”は、トドメを刺すって意味でしょう。アサシンのトドメ効果と同じなんですよ」
そ、即死攻撃だったのか!
油断大敵。一生の不覚。
次のターン、素早いぽよちゃんがどうにかブンブンを倒してくれた。
ごめんよぉ。バラン。
つまみ食いしてる場合じゃなかった。
*
戦闘後、フェニックスの灰でバランは生き返った。ほんと、ごめん。
「ここらへんのモンスター、石化や即死を使ってくる、やな連中だね。つまみ食いしてるヒマはないのか」
「つまみ食い。おもしろい技ですね。そんな技を使う者がいるとは」
そう言って、クルウは何やら考えこんだ。
「あっ、安心してください。味方をターゲットにはできないんで」
「幸運が異様に高いのは、そのせいですか?」
「いえ。それは違うけど」
そんな話をしているうちに、屋敷の前までやってきた。
いるいる。ボスモンスターだ。
三村くんはよろいの魔物だって言ったけど、よく見ると違う気がするぞ。
よろいのつぎめから尻尾が出てる。
よろいのなかに入ってるのはバジリスクのデッカイやつじゃないのかな?
イヤーな感じがするけど、戦わないと、なかに入っていけない。
ポルッカさんは一般市民だったはずなのに、なんで屋敷やそのまわりにまでモンスターがあふれてるんだろうか?
急に魔法でも覚えたのか?
あっ、それか魔王に魂を売ったか?
そんな! 小さいコインを景品と交換してくれる人がいなくなっちゃうじゃないかぁ。
さ、んじゃ、ボス戦だ。
「あいつ、よろいの中身、バジリスクだね。外のメンバー代えないと、戦士ばっかりだと、全員が石化されたとき、戦力が残らないよ」
「おれは石化されへんで」
そうだね。僕があげた竜鱗のシリーズのおかげでね。僕があげた竜鱗で……。
「もしも、アイツが石化以外の攻撃をしたときのために、シャケは大事をとって残ってもらったほうがいいかも。ためたり、仲間呼びはターンが必要だから、その前に石化されると、それまでの行動がムダになる。通常攻撃で攻めるほうがいいね。二回行動できるぽよちゃんは外せないし、バランの薔薇はボス戦では絶対ほしい。だから、シャケとアンドーくんを交代しよう。アンドーくんは、みんな巻きで」
そんなわけで、メンバー交代。
きれいな花の咲く前庭のなかへ侵入する。
可愛い白壁の家の玄関へ歩いていくと、バジリスクがこっちを見た。カアッと口をあける。
音楽が変わった。
牧歌調のやつから、戦闘音楽へ。
バジリスク隊長が現れた!
あれ? 野生じゃないんだ?
コイツ、魔王軍なのかな?