第229話 魔法が解けたポルッカランド

文字数 1,524文字



 ヤドリギのカケラが飛びさって、屋敷にかかっていた悪い魔法はすべて消滅した。モンスターはいなくなり、ダンジョンも消えた。


 戦闘に勝った。
 経験値1500を手に入れた。
 三千円を手に入れた。
 バジリスクAは宝箱を落とした。
 バジリスクの涙を手に入れた。
 バジリスクBは宝箱を落とした。
 バジリスクの涙を手に入れた。
 ポルッカは宝箱を落とした。
 小さなコインを手に入れた。


 ポルッカさんは正気に戻った。

「あらまあ? あなたたちは? わたしは何をしてたんでしょう?」

 これで、マルッカとムルッカも大喜びだ——と思ったんだけど……。

 もしかして、そうかなぁとは感じてたけどね。
 マルッカとムルッカはいなくなってた。厳密に言えば、人間の姿の二人は。
 ポルッカさんの足元に、女の子と男の子の人形が落ちている。バトルの途中で消えた、あの野生の男の子と女の子だ。

「やっぱり。この子たち、人形だったんだ」
「きっと、持ちぬしのポルッカさんを心配して、僕らに助けを求めてきたんでしょうね」

 屋敷をダンジョンにする魔法のせいで、仮の命がふきこまれていたのかもしれない。

 ポルッカさんもようやく、自分の置かれた状況に気づいた。

「わたし、変なものにあやつられていたようですね。そのあいだのことは、うっすらとですが記憶にあります。マルッカ、ムルッカ。ありがとう」

 ポルッカさんの優しそうな双眸から、ポロポロと涙がこぼれおちてくる。

「わたしには子どもがいません。たくさん人形を集めましたが、この子たちをとくに可愛がっていたんです。わが子のようにね。若いころ、婚約者に裏切られましてね。どこか遠くへ大切なものを探しに行くと言ったきり、あの人は帰ってきませんでした。何年も待ちました。そのせいで、わたしは一度も結婚することもなく、この年になったのですよ。仕事では成功したけど、近ごろは一人で暮らすのがさみしくてねぇ。その心を何かに利用されたようです」

 悪のヤドリギ、ゆるせないなぁ。
 グレート研究所長もゆるせないけど、悪のヤドリギもゆるせない。
 魔王軍のヤツらは、ほんとにどいつもこいつも極悪非道だ。

 蘭さんはポルッカさんの手をそっとにぎった。

「ファッションショー、楽しかったですよ。定期的にひらいてみてはいかがですか? きっと、いろんな町から人が集まってきます。それに、これからは僕らもときどき遊びに来ますしね」
「ファッションショーか。それはいいかもねぇ」

 僕らはなぐさめたけど、でもほんとは、ポルッカさんはいっしょに暮らす家族がほしいんだろうなぁ。

 そう思ってたときだ。

「おっ? ロラン、背中になんかくっついとんで?」
「えっ? なんですか?」

 カエルだった!
 ケロよんだ。
 モンスターのケロよんが、蘭さんの背中に水かきの手でひっついてる。

「ストーカー製造機だね」
「そうか。戦闘後に仲間になっていたんですね。この子も、もとはこの屋敷の人形だと思うけど……」

 そこまで言って、蘭さんはハッとした。

「もしかしたら、まだ効くかも!」

 マルッカとムルッカをつかむと、蘭さんは、じっと見つめた。そのあと、もう一度、二体の人形を床に置く。

「マルッカ。ムルッカ。いいですか? 僕のあとをついてきて」

 くるっと背をむけて蘭さんが歩く。
 と——

「あっ、動いた!」
「おお、動いたな。人形のまんまやけど」

 人間の姿にまではならなかったけど、マルッカとムルッカはチョコチョコ動いた。魅了からのストーカー製造機だ。

「じゃあ、マルッカとムルッカには自宅待機を命ずる。ポルッカさんを守ってあげるんですよ?」

 僕はちょっぴり涙ぐんでしまった。
 幸せそうにポルッカさんにかけよっていく、マルッカとムルッカを見て……。
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登場人物紹介

東堂薫(僕)

ニックネームは、かーくん。

アパレルショップで働くゆるキャラ的人間。

「なかの人、しまねっこだよね?」とリアルで言われたことがある。

東堂猛(兄)

顔よし、頭よし、武芸も達人。

でも、今回の話では何やら妙な動きをしている。

九重蘭(ここのえらん)

同居している友人……なのだが、こっちの世界では女の子?

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